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第193話 魅了 Ⅳ
「…そっか」
先輩はそう呟くと、両手で僕の目元や頬を拭いていて、その動作にハッとなった僕は 俯く事で先輩の手からやっと逃れる事が出来た
「ね、名前聞いても良い⁇」
「…鞍月 創です」
「創ね…ありがと
俺、榎戸 稜(えのきど りょう)
ちゃんと言ってなかったよね」
「…そう…ですね」
僕が気の無い返事をすると 先輩は僕の事をギュッと抱き締めてきて、出せる力の限りで抵抗を試みたものの、先輩の力はすごく強くて 結局されるがままになってしまった
「や、やめて下さい!!」
「ねぇ、付き合わなくても良いからさ
校内では 俺に創の事守らせてよ」
「…え⁇」
言ってる意味がよく分からなくて恐る恐る顔を上げると 先輩はすごく綺麗に微笑んでいて、醸し出るフェロモンに 無意識に手の力が抜けていく
「俺も創の事気に入ってるって分かれば、流石に手出してくる奴なんて いないと思うんだよね」
「…で、でも」
先輩の気持ちには 一切応えられないのに、そんな都合の良い事だけお願い出来る訳がない
「いいから先輩に任せなさい
明日の昼は 日向と学食おいで⁇」
僕が返事に困っていると先輩は僕の両頬を軽く引っ張った
「そんな暗い顔しないの
俺、創の可愛い顔見たいな〜」
「そ、そんな事言われても…」
離された頬をさすっていると、先輩は僕の脇から手を入れてゆっくり立たせてくれた
「いつも送り迎えしてもらってるんでしょ⁇
校門まで送ってくよ」
「…ありがとうございます」
佑吾との約束もあったし断った方が良いのは分かっていたけどどうしても廊下を 一人で歩くのが怖くて先輩に甘えてしまった
先輩は佐倉さんの車が来ているのを確認すると
「また明日ね」と言って僕の頭を撫でると、また校舎に戻って行った
「創様 申し訳ございません、遅くなってしまって… 」
「いえ…いつもありがとうございます」
車内に居たのは佐倉さんだけで、何故かホッとしてしまった
佑吾が居なくて安心するなんて、そんな自分が堪らなく嫌で膝の上に乗せていた鞄を強く握り締めていた
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