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第5話

 イデアル王国は緑豊かな穏やかな国だ。近隣諸国との諍いも少なく、獣人と人間、そしてその間に産まれた半獣人が互いの存在を認めあって生活している。  現イデアル国王は争いを好まず、政に関しても重臣たちと共によく話し合ってから決断し国民に不利益にならないよう心掛けている優しい王だ。国民はそんな王を少し頼りなく思いながらも、今の平和な暮らしがあるのは王のおかげだと敬っている。  後継者である王子は王の良いところを引き継ぎ、尚且つ賢く勇敢でカリスマ性がある。誰しもが次の国王の統治する未来のイデアル王国に期待していた。  国を護る騎士団も平和ボケなどせず鍛錬に勤しんでいる。中でも隊長のレストは銀の美しい毛並みをした狼の獣人で、その強さも圧倒的だった。  王国を取り巻く重臣や役職のある者の殆どはαと呼ばれる男女以外の第二の性別の者が多い。α性は優秀な遺伝子を持っていて、国王も王子もα性だ。イデアル王国ではα性のみが国王になれる為、王の子供で長子であってもα以外のβ性もしくはΩ性は王にはなれない。  諸外国はΩを軽んじ、その独特の性質を利用し奴隷にしたり娼館で働かせたり、政の道具として利用している。  それはΩ性にしかない発情期というもののせいだ。個人差はあるが、Ω性は他人を誘惑するフェロモンを自らの意思とは関係なく分泌する期間がある。この期間になるとΩは性欲を満たす事しか考えられなくなる。  このフェロモンに最も影響を受けるのがα性である。Ωのフェロモンを感じるとαも理性が保てなくなり、目の前のΩを無理やりにでも犯したくなる。その結果、Ωは壊れるまで犯され、望まぬ妊娠をしてしまう事もある。  しかしその体質を利用して発情期のΩをわざとαに差し出し、金儲けや交渉の切り札にする。Ωには人権というものが全くなかった。  そんな存在のΩを保護の対象としてαやβと同じ生活が出来るように取り計らったのが、現イデアル国王、その人である。

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