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第6話

 イデアル国王はまず発情期に安全に過ごせる様にΩ専用の施設を城内の敷地に建てた。そこはΩのみが出入り出来る場所で、警備にあたる者はΩのフェロモンに耐性がある番を持つαだけだ。  番はαとΩの間だけで成立する特別な関係。発情期中のΩと性交渉をしている最中にαがΩの項を噛む事で成り立つ。一度、番が成立するとそのΩのフェロモンは番になったαにのみ効果を示す為、他のΩが発情期になっても番のいるαは誘惑されない。  番は婚姻とも違う関係でその絆も深い。今までは利用され無理やり番にさせられたΩが多かったイデアル王国も、国王のΩへの政策が功を奏し、思い合う相手と番うΩが増えてきた。  この政策を知った諸外国に住むΩがイデアル王国に移住してくるようになり、発情期以外のΩ達は生きやすくなった。人口が増えたイデアル王国は働き手も増え、発情期ではない時のΩ達も一生懸命働いて国王に忠義を示した。  イデアル王国は長い歴史の中で今が一番平和で豊かな時を迎えて繁栄していた。  しかしその政策には秘密があった。王とその家族、そして重臣の極限られた者のみが知っている事実。  イデアル国王は国民に公表していない子供がもう一人いる。その子は産まれながらにしてΩ性であると判別された。α同士の婚姻をしてきた王家からΩが産まれるはずはなかった。当初、重臣達の間では王の妻である王妃の不貞を疑っていたが王がそれを否定し王妃を庇い続けた。  産まれたばかりの子がΩだと公表すればそれを利用しようとする者も出てくると予想され、王は子供を守る為にその子を我が子と認めた上で周囲には公表せずに密かに育てることにした。  その子が成長し、発情期を迎えた頃にΩが住みやすい国にしておかねばならないと決意した王は時間を掛けてその政策を実現した。  Ωの子供は性別など関係なく両親と兄に大切にされ、真っ直ぐに育った。  αであれば第二王子として表舞台で兄の補佐をする役割を担っていたであろうΩの子は、存在を公表していない為、政にも参加出来ず騎士団に入る訳にもいかず、ただ毎日を城の敷地内で目立たずに過ごすだけだった。  とても健康で大きな病気もせず、体力をつけこっそりと鍛えているのにΩの発情期が戦闘中に起こった時の混乱を防ぐためΩは騎士団にも入れない。自分の居場所が何処なのか彷徨い続けていた頃に見掛けたのが獣人の騎士、レストだった。  Ωの子は彼に憧れを抱いた。仲良くなって剣の技を鍛えてほしかった。騎士団には入れなくとも自分の身は自分で護れるくらいの強さが欲しかった。  王子である事を伏せて彼は騎士に理由を話した。強くなりたい、と。最初は渋っていたレストも騎士団の訓練が終わって他に予定がなければ相手にすると了承してくれた。以来、Ωの子は狼の騎士に挑み続けている。

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