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第8話
「それで、今日は一体どうした? 呼んでもなかなか来ないお前が自分から来るとは」
父王はとにかく子煩悩で二人の息子をとても可愛がった。兄が跡を継ぐからと弟を蔑ろにはせず、弟がΩだからといって偏見の目で見ることもなかった。
限られた一部の人間しかクレエの存在は知られていないため、親子で過ごせる時間は少ない。この休憩時間は数少ない親子での交流が持てる時間の一つだ。
王はその時間によく息子たちを呼んでお茶を飲みながら他愛のない会話を楽しむのが何より好きで、クレエも三日と空けずに誘われる。しかしあまり頻繁に出入りしていると事情を知らない者に見られた時に困る。噂話にでもなればあっという間に広がる。父や兄に自分のことで変な噂話が流れたり、政の邪魔にだけはなりたくなかった。
だから誘われても最近は来ないようにしていた。クレエが王家のために出来ることは、目立つことなくひっそりと生きていくことだけ。自分の部屋から外に出る時は庶民の服装を着て、周りに人がいないかしっかり確認しないといけない。そんな生活をずっと続けていた。
服装一つ違うだけで誰も自分の事を第二王子だとは気付かない。Ωという性で産まれたおかげで王家の一員としての権限は殆どないが、発情期さえ気を付けていれば自由に動き回っても問題ない。レストに出会った時もクレエは庶民が着るような動きやすく、汚れても平気な服装だった為にレストに王子だとバレなかった。
「騎士団隊長のレストに見合い話を持ちかけたと聞きました」
本来なら当人同士の話だからクレエには関係ないがどうしても気になってここまで来てしまった。レストの見合い相手が誰なのか、どこまで話が進んでいるのか、気になりだしたら足が勝手に父王の部屋に向かっていた。
「ああ、その話か。宰相が自分の娘はどうかと言ってきてな。何度か会った事があるが気立てのいい娘だ、悪い話ではないだろう」
「宰相の……」
イデアル国の宰相は頭の回転が速く、優秀な獣人だ。その娘ということは当然、獣人。身分も不足はない。これ以上ない良い話だ。
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