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第9話

「それがどうかしたか?」 「いえ……今までそういう話は本人があまり乗り気ではなかったので、今回もそうではないかと。王と宰相に言われてしまったら断りづらいですし……」  いっそ番にならないかと苦し紛れでクレエに言ってしまうくらい、レストはこの見合い話に乗り気ではないのは確かだ。けれど相手には何の問題もないのに何故そこまで結婚を嫌がるのかクレエは不思議に思った。 「ふむ……乗り気ではないか。しかし何故クレエがそれを心配するのだ?」 「え……」  それは、と言いかけて言葉に詰まる。  レストが結婚しようとも騎士団隊長であることに変わりはない。今までのようにレストに挑みにも行けるだろう。むしろもっと出会いを求めろと後押ししてやるのが王子としての勤めではないか。 「父王、クレエは隊長殿に結婚してほしくないのですよ」  優雅にお茶を飲む兄がクレエに微笑みかけながら言った。 「何故だ?」 「クレエと隊長殿は仲が良いですからね。時折、二人がお喋りをしているのを見かけますがとても初々しい様子で間に割って入るのも憚られます」  ニコニコと父王に報告する兄にクレエは驚きを隠せなかった。  レストとは密会をしていた訳ではないから後ろめたいことはないが、兄にはそんなふうに見えていたのかと恥ずかしくなる。 「クレエも遠回しに言わずにはっきりと父上に言えば良いではないですか。自分達の邪魔をするなと」  気のせいか兄はクレエの反応を楽しんでいるようだった。唖然としているクレエを笑顔で見つめている。 「なんと、二人はそんな間柄だったのか。それでは乗り気にもなりはしないだろう、レストには申し訳ないことをしたな」 「え、いや、父上っ……」  自分達はただの友人でそんな関係ではないと否定しなければいけないのに、心の中にいるもう一人の自分が「素直になれ」と引き止める。そんな感情に困惑して何をどうしたらいいのか浮かばない。 「クレエにも相応しい相手をと考えていたがレストなら申し分ない。この話、進展があれば以後必ず報告するように。わかったか、クレエ?」 「え、それはっ」  進展などある訳ないと焦っているとクスリと兄の小さな笑い声が聞こえて思わずそちらを睨んだ。昔から兄には敵わない。 「午後の政務のお時間です」と従者が父王に告げると、父王は立ち上がり「必ずだぞ」と言い残し部屋を出ていった。

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