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第10話

 残されたクレエは兄を恨めしげに睨み、兄は楽しげに微笑む。 「どういうつもりですか!」 「どうもこうも、間違いだというのならいくらでも否定できたはず。そもそもクレエが見合い話に口を挟むことがおかしいのではないか?」  兄の言っていることは尤もだ。ただの友人であるクレエが王の元に訪れて直接意見するなんてお門違いもいいところ。これではレストの将来を邪魔しているだけだと唇を噛んだ。 「クレエ、お前は賢い子だ。自分の素直な気持ちを家族にも隠して、Ωだからと我慢して人の何倍も良い息子、良い弟であろうとしてくれた」  クレエの手を取って、兄は優しく語りかける。 「けれど、一番大切なものは簡単に手放してはならない。誰かと争うことになっても、譲れないと思えるのならそれを貫かねば一生後悔する」 「兄上……」 「いい加減、自分の気持ちを誤魔化すのはやめてきちんと向き合うのです。本当は、わかっているのだろう?」  兄に諭されて、クレエは言葉もなく俯いた。  本当は気が付いている。何故、こんなにもレストの見合い話が気になるのか。何とか見合いさせないように出来ないかと考えを巡らせているのか。  レストのことを、本当はどう思っているのか――。 「……玉砕したら慰めてください」 「その時は久しぶりに一緒に寝ようか? 子供の頃は怖い夢を見たと言っては私のベッドに潜り込んできて可愛かったものだ」 「そんなことは忘れましたっ」  ふふ、と声を出して笑う兄につられてクレエも笑ってしまう。  心が温かくなって、今なら何でも出来そうな気がした。

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