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第30話

「レスト!!」  名前を呼ぶとクレエの方を見たレストがにっこりと笑う。走ってきた勢いのまま、クレエはレストの腕に飛び込んだ。  びくともせずにクレエを受け止めたレストは軽々とクレエを抱き上げ「ただいま」と囁いた。 「おかえりっ。怪我はないか? 疲れただろ?」  レストの首に腕を回して抱きついたクレエは顔をよく見ようとレストの両頬を手で包む。 「大丈夫だ、お前の顔を見たら疲れなんて消えてしまったよ」  優しいアンバーの瞳がクレエを愛おしそうに見つめる。  視線を交わし、笑い合うとまるで口付けをするかのようにお互いの鼻先をくっつけた。それはとても微笑ましい姿で、周りにいた騎士団のメンバーはいつも厳しい顔の隊長の優しい笑顔に驚きを隠せず、後から追いついた父王とスエラも素直に騎士団隊長の腕に抱き上げられて喜ぶクレエに目をパチクリさせた。  そんな周りの反応などお構い無しに何度も鼻先をくっ付けて、耳元で囁きあっては微笑み合う姿に呆気にとられていた周りもやがて自然と笑みを浮かべた。  昔、小さな子供だった頃に寝物語で聞いたおとぎ話に出てくるような幸せなひと時に誰しもが心を癒し、優しい気持ちになっていった。  それはとある国の王子と、狼の騎士のお話。  それは、αとΩが番になる前のお話。  そして、これから先に待つたくさんの物語のほんの一片。  ――狼の騎士と初恋王子の始まりの物語。  

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