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第29話
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今日は朝からずっとソワソワしていた。
二日前に早馬が東からやってきて騎士団の帰還を知らせた。順調にいけばもうそろそろ城に到着するはずだ。
午後の執務の前の休憩時間。父王の自室でお茶をしながら待つ。ここで待っていれば帰還の報せが父王に一番に届けられるため、自ずとクレエの耳にも入る。
レストを見送ってから数日。クレエはまだ父王にレストとのことを話せていない。レストもまだ自分が国王の息子だとは知らない。レストはきっと驚くだろうけれど、受け入れてくれると信じている。ただのΩの下働きと思っていたクレエを受け入れてくれたのだから。
「父上……あの……」
「なんだ?」
父王を目の前に、兄のスエラを横にしてクレエは首に巻いた赤いストールを握りしめ、ずっと考えていたことを口にした。
「オレ、もう少し国の事に関わりたい。王になりたいとかは全く思ってないけど、何か……オレにも手伝わせてほしい。もう蚊帳の外で見てるだけなのは嫌なんだ」
レストと一緒に生きていくには今の自分のままではダメだ。隣に並んで歩いても胸を張れる、レストが自慢できる、そんな存在になりたい。
もちろん、レストの腕の中で甘えて過ごすのも嫌じゃない。それはそれで好きだけれど、性格的にずっとじっとしていることは出来そうにない。
誰もΩの王子にそんなことを望んではいないだろうけれど、それでも何かしたいのだ。王子として産まれてきた意味を、自分で見つけるために。
「そうか……」
父王はチラリと兄の方を見やった。兄はいつもの様に微笑を浮かべて優雅にお茶を飲んでいる。
「お前ももう子供ではないのだな、クレエ。大切に隠しておいてもしっかりと自分で道を選べるようになったということか」
「父上、クレエはもう小さい子供ではないのですよ。きっと父上や私の力になってくれるでしょう」
二人がしみじみとクレエを見て微笑む。認められたのだと分かり、クレエは嬉しくて緩む顔をごまかす為にお茶を一気に飲み干した。
「陛下、騎士団が帰還しました」
部屋の外から聞き慣れた衛兵の声がした。
その報告に一番に反応して立ち上がったクレエは、物凄い速さで部屋を飛びだして城の門まで走って行った。
背中で父王が「クレエ、どうした」と言った気がしたけれど、止まっている場合ではなかった。
門の前では丁度、騎士団のメンバーが乗っていた馬を従者に預けたり、荷物を下ろしたりしているところだった。
ざわざわしている人垣の中、一際目立つ銀色の毛並みの狼を見つけると、クレエの胸は喜びで震えた。
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