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第28話

「オレが帰ってくるまでおとなしくしてろよ? 他のαに項を噛まれるなよ」 「当たり前だろ!!」  今までだって発情期は十分気をつけていたのだ。番になる相手が出来たのだから尚更、行動には気をつけなければ。 「心配だな……。お前は結構、抜けてるからな」 「はぁ!? オレの何処が!?」  抜けてるのはどっちだよ、と言い返すとフフと笑うレスト。  もう少し一緒にいたいと我が儘を言いたくなって、言葉を飲み込む。  立ち上がったレストが箪笥の中から赤い布を取り出してベッドまで戻ってくる。 「隊長になった時に祖母からお祝いにと貰ったんだがオレには派手でな……」  布を広げるとそれは手触りのいいストールだった。  まるで包帯を巻くようにクレエの首にクルクルとそれを巻き付けて満足気な顔をするレスト。 「お前の髪の色によく似合う。これで少しは安心だ」 「貰い物なのに、いいのか?」 「オレの大切な人の為に使うのだから祖母も許してくれるさ」 「……そういうことなら、貰っとく」  そう言って少し照れてストールに触れた。 「さて、そろそろ集まる時間だ。お前はゆっくり寝ておけ」  立ち上がったレストに、クレエも慌てて立ち上がろうとした。しかし下半身に力が入らずあちこちが鈍く痛んで顔を歪ませた。 「ほら、まだ動けないだろ? いくらΩでも獣人を受け入れるのはかなりの負担だ。しかも初めてなら尚更だ」 「でもっ……せめて見送りくらいっ」  腰を抑えながらなんとか立てないかともがいていると鼻先をツンと頬にくっ付けられた。 「見送りは苦手だ。だから帰って来た時におかえりと迎えてくれ」  蕩けるような優しい眼差しでふんわりと微笑まれると、それ以上何も言えなくて大人しく「わかった」と頷いた。  ベッドに寝かせられ、荷物を持って出かけていくレストの背中をじっと見つめていた。  大きな背中には騎士団の隊長としての責任を背負っている。頼もしくもあり、心配でもある。きっとレストと番になるということは、常に怪我や生死を心配して生きていくということ。  それでもレストはそんな心配を蹴散らして自分の元へ帰ってきてくれると信じて待つしかない。  そして帰って来たらとびきりの笑顔で「おかえり」と迎えるのだ。

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