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窓の向こうにまばらな明かりが飛び去って行くのを、ぼんやりと眺めていた。 車のディスプレイの時計は二十一時三十七分。ということは、もうかれこれ一時間はこうして助手席のシートに座り続けていることになる。この時間にここらで明かりの付いた建物と言えば、県道沿いのファミレスかコンビニ、あとは意味の分からない横文字のラブホくらいしかなく、俺は後ろに流れて行く派手なピンクとブルーのネオンサインから目を逸らす。あーあ、今日も読めなかったな。 従兄弟の祐一郎とのドライブはいつも退屈で、俺は込み上げて来る何度目かの欠伸を噛み殺した。 「(しゅん)、眠いの?」 噛み殺した欠伸に気付いた祐一郎が、信号に引っ掛かったタイミングでこっちを覗き込んでくる。 やや垂れ目の甘い顔はよく言えばイケメンだけど、なんつーかチャラいし、遊び慣れてますって感じがいけ好かない。一応少しは血が繋がってるはずだけど、一重で愛想の欠片もない俺とは似ても似つかなかった。 「……別に、眠いだけ」 暗に帰りたいことを示す。自分でも態度が悪いと思ったが、祐一郎は顔色ひとつ変えずに頷いた。 「そっか。今日はもう遅いし、そろそろ帰るか」 ぜひそうしてくれと思いつつ頷くと、信号が青に変わる。祐一郎が前を向いたので、俺はそっぽを向いて目を閉じた。 「…………」 祐一郎は運転に集中しているからか、眠いと言った俺に遠慮しているからか、さっきまで学校はどうだとか色々話し掛けて来ていたくせに途端に大人しくなる。これで毎度息苦しいばかりのこの時間もようやく終わるのだと、シートに身を委ねながらほっと息を吐いた。 毎度。そう、祐一郎とのドライブはもう、何度目かも分からない。週に一度、多い時は二度くらいのペースで、祐一郎はこうして俺をドライブに連れ出す。 でも俺たちは仲がいいって訳でもない。むしろ俺が一方的に嫌っているし、そもそも年だってけっこう離れている。祐一郎は俺の六つ上で、誕生日が来てなければ二十二だ。むかつくことに医大生で、車で何十分か走った所で一人暮らしをしている。成績だけなら東京のの医大にも行けただろうに、本家は過保護だからか県内の大学を選んだ。 一人っ子の跡取り息子は昔から伯父さん夫婦の自慢の優等生で、思う存分甘やかされてるから金だって車だって持っている。女子にモテる顔とかいい成績とか県大会ベストフォーのテニスの腕前とか、みんなが欲しがるものはそつなく持っているのがこいつだ。そんなやつには遊び相手なんていくらでもいるに違いなく、なんでわざわざ遠い所にいる俺なんかに会いに来るのかは謎だ。 そもそも医者を目指してる奴がそんなに暇な訳がないだろうに、こいつは頻繁に車を走らせて俺に会うために地元に戻って来るのだった。 夜に家まで迎えに来る祐一郎に助手席に乗せられ、延々と連れ回されては学校はどうだとか、そんなどうでもいい話題を振られるだけの数時間。 俺の素っ気ない返事のせいで会話は続かず、沈黙ばかりの時間はいつも気詰まりだ。そんなにドライブがしたいなら他の奴ーーーー例えば彼女とかを連れてけばいいのにと毎度思うし、付き合ってくれる奴は掃いて捨てるほどいるだろう。 できれば断りたいし金輪際会いに来るなと言ってやりたいところだけど、実際に行動に移せない事情があった。 ーーーーというのも、俺の親は祐一郎の親に多額の借金を抱えているのだ。それも俺のせいで。

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