1 / 3
第1話
朝日が昇る前に、僕は靴を履き、少し離れた病院へ向かう。
その病院は外観も内装もとても綺麗に管理され、病室からはゴミ1つ落ちていない白い砂浜、透き通るような海が見える。
僕が病院に着いたのは、朝日が海から昇りかけた頃だった。少し歩くスピードを早める。
僕は病室の前で呼吸を調え、静かに扉を開けた。
「おはよう、矢野君。」
返事は返ってこない。
その代わり聞こえるのは、気持ち良さそうな寝息と慌ただしい機械音だけ。それでも僕は、ベッドに横たわる傷だらけの体に話し掛け続ける。
「ごめんね、今日は遅くなっちゃって。朝日、昇っちゃったね。」
朝日が病室の中を静かに照らす。
「少し眩しいね。今、カーテンを閉めるね。」
僕はカーテンを閉めた。
と、同時に病室の扉を誰かがノックする音が聞こえた。
「失礼します。やっぱり来てたか、伊沢君。」
それは矢野君の担当をしている看護師だった。
「おはようございます、湊さん。」
「おはよう、伊沢君。」
看護師は矢野君の顔と、矢野君を縛るように付いている機械の画面を見ると。
「今日も異常はないよ。」
と、笑顔で言うと病室を後にした。
「良かったね、矢野君。」
やはり反応は無い。
きっと矢野君は、あの日に独り取り残されている。
ともだちにシェアしよう!