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第2話

あの日は、蒸し暑い日だった。 「矢野君!」 「伊沢、お帰り。」 僕はその日も、矢野君を待たせていた。 「ごめんね、遅れた。」 「平気、帰ろう。」 矢野君はいつものように、嫌な顔1つしなかった。 本屋の近くに差し掛かったとき、教室に宿題のプリントを置いていったのを思い出した。 「ごめん、教室に宿題忘れちゃった。」 「一緒に行こうか?」 「んーん、独りで取りに行く。」 「そ、じゃぁ待ってるね。」 「ありがとう。」 矢野君は駅で待っていると言った。 僕はそんな矢野君の優しさに甘えて、待っていてくれと言ってしまった。 「ありがとう、すぐ行くから。」 矢野君は手を振ってくれた。 駅に着いたときに丁度、僕達の乗る電車が着いていた。 矢野君はその電車の前に立って、僕を見ていた。口パクで、早く。と、やっているのがよくわかった。 「うん!すぐ行く!」 僕は少し歩くスピードを早めた。 僕は矢野君から2メートル離れた所ぐらいから、普通のスピードで歩き始めた。 「ごめんね、また少し遅れちゃった。」 「いいよ、乗ろう。」 矢野君は僕の手を握って、電車に乗った。 僕のせいで、いつも乗っている電車の次の電車に乗った。そのせいか、人はとても少なかった。 「今日は人、少ないね。」 「・・・。」 矢野君が無反応なのが気になって、矢野君を見た。矢野君はとても辛そうな顔をして、胸を押さえていた。 「矢野君!?」 僕はただ事じゃないと思って、開いていた扉から矢野君の手を引っ張り、ホームに飛び出した。 「大丈夫?!」 矢野君はふらつきながら、ホームを歩いていた。 「ちょっと待って、矢野君!」 矢野君は、僕の制止の声も聞かず歩き続けた。 そして次の瞬間、ホームから落ちた。 「矢野君!」 周りの大人がそれを見て、緊急ボタンを押し、電車の危険は消えた。 僕は周りの大人と一緒に、ホームから落ちた矢野君を見た。そこには、血だらけの矢野君が居て、僕は手を伸ばして助けようとして落ちそうになったのを、周りの大人が止めた。 「僕、また、遅れちゃった。」

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