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第25話〜5〜
「ん、」
この部屋に時計がないので今が何時か分からない。
それに窓がないから朝か夜かさえも分からない。
これは結構…困る…。
でも体が少しスッキリしてるからよく寝たんだと思う。
僕は途中だった本をまた読み始める。
するとギィィと扉が開く音がした。
よく人が来るな…って思いながらも目を向けると今度はひな兄がいた。
「何呼んでんの?」
「…本。」
「ふーん。それってキタヤが書いた本だろ?面白い?」
「まぁ…」
気のない返事をしたけど実はもうすっかりこの本にハマっていた。
すごく面白い。
本を読んでる時は、この現実世界から離れられていてすごく気が楽だ。
でもひな兄は何をしたいんだろうか…
普段はこんなにも僕に優しく接することの無いひな兄。
大抵は無視か怒鳴るかだ。
何かいいことがあったとか…?
それともなにか裏がある…?
溶けかけていた警戒心がまた強くなる。
「…またキタヤの新刊がでたら買ってやろうか?」
「えっ?!」
それは予想外にとてもいい提案だった。
本棚にはまだキタヤの本はあるけれど、新刊が出るならまた買いたいくらい、僕はもう先生のファンになっていた。
「いいの?!」
「あぁ。けど条件がある。
これからお前は欲しいものがあるなら俺に言え。そしたらなんでも買ってこよう。ただしテレビやゲームの不用品、高価なものはダメだ。お前にはもったいない。
そして見返りが必要だ。分かるな?」
「見返り…?」
「そうだな…。この部屋に時計やカレンダーがないのは不自由じゃないか?」
確かに…
それに目覚ましも欲しい。
これはひな兄の提案に乗った方が得策かもしれない。
でも見返りっていうのが引っかかった。
「なら後で時計を持ってきてやるよ。
見返りはその後。
それでいいか?」
見返りってのがよく分からないけど、もし殴られても物が手に入るならまだいいかもしれない。
「いいよ。」
後々この僕の返答を後悔するとは知らずに。
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