40 / 207

第40話〜彼〜

突如現れた男の人は両手で包丁を持っていた。 目に光がなくて、なにかブツブツ言っている。 でも僕はこの人に見覚えがあった この家の使用人だ… 僕によく食事を持ってきてくれたメイドの恋人さん。 でもどうしてここに… 「藍川千聖………、俺の彼女はどこ行ったんだ………」 声を発した彼に、ようやくちさ兄もその存在に気づいた。 「はぁ?何許可なくここに入ってんの?包丁なんて危ないもの持ってさ! てか彼女?彼女なんていたんだ?」 「…ッこいつ!!」 「口を慎め使用人如きが。 …んで?お前の彼女なんざこれっぽっちも興味ないけど聞いてあげる。 名前は?見た目は?特徴は?」 ちさ兄は使用人の名前なんていちいち覚えていない。 けど顔は覚えてるから、特徴を言えば何とか分かるらしい… 包丁を持っている人は必死に説明する。 「……あー、あの子ね。うんうん、思い出した」 「雪子はどこに行ったんだ!あの日藍川陽向に呼び出されて以来姿が見えないんだ!!」 雪子……きっと恋人の名だろう でもどうして、ここでひな兄の名前が出たのだろうか? その場合、この人はひな兄の場所へ行くはずだし… 僕の疑問を解くように男の人は話し出す。 「確かに雪子は藍川陽向に呼び出された! けどなぁ!その指示を出したのはお前なんだろ!?なぁ、藍川千聖!!!」 彼は睨むが何故かちさ兄は笑っていた。 「くくっ…」 「…は?」 「あー!面白い!よくそこまで知れたね〜 僕あんたの彼女さんの居場所知ってるよ 教えてあげようか?」 その言葉に彼は少し頬を緩めたが、次の最低な言葉でその顔はまた怒りへと変わる。 「殺っちゃった〜」 ちさ兄は下を指して言った。 それはつまり、土に埋めた、ということだろう… 「なっ…!」 言葉が、出ない… そんなゲームで失敗したかの様に軽く言う兄。 ほんとに人の血が流れてるのだろうかと思ってしまうほど、ちさ兄はとても楽しそうだった。 「…ってめぇ!!なぜ殺した!!! 雪子は何もしてないだろ!!」 「えぇ〜何言ってんの〜? そいつは南の部屋の鍵を閉め忘れた。 おかげで南は脱走するしでめんどくさい事になったのにな〜?」 彼はついに顔を真っ赤にさせちさ兄目掛けて包丁を向ける。 僕は目の前で何てものを見てしまうんだろうか 怖い 胸がドキリ、ドキリと音が鳴る。

ともだちにシェアしよう!