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4話「息子の血液検査、結果は……」

 翌日、俺は下校した鵠を連れて病院に行った。ここはいつも抑制剤を処方してもらうので、担当の先生とも顔馴染みだ。  先生は部屋に自分だけを招き入れ、血液検査の結果を淡々と告げた。 「――――息子さん、αですね」  頭の中で何度も予想していたこととはいえ、いざ宣告されるとクラリと眩暈がした。  「後天的なものではなく?」とおそるおそる質問すると、先生は首を横に振った。 「バース性が変わることは極めて異例です。骨髄移植や赤ん坊の時の血液検査での誤診断によって変わることはありますが、いずれにせよ有り得ません。鵠君は生まれてからずっとα性ですよ」 「でも……今までヒートになんてならなかったのに」 「15歳ですから、初めてなるのは不思議じゃないですよ。――――それより、三角さんにお子さんがいたとは初耳ですな。貴方とは長い付き合いですが」  先生は眼鏡の奥で見透かすような視線を向け「私からも質問したい」と話を続ける。 「息子さんがΩ性だという証拠の診断書をお持ちですか? もしあればそれは病院側の誤診断なので、貴方が動揺するのも納得できる」 「それは――――――ない、です」 「妙な話ですな。バース性を診断する血液検査は義務化されている。なのに我が子の診断書を持っていないと。なのに鵠君がΩであると確信を持っていたと」  これじゃまるで誘導尋問じゃないか。  内心思ったが、先生が疑問に感じるのも無理はないと考え、本当のことを告げた。 「――――鵠は俺が生んだ子ではない、です。本人がΩだと主張しているのに再検査させるのも酷だと思って、今までしてこなかったです」 「養子、ですか」  こくりと頷くと、先生は謎が解けて満足したのか「なるほど」と呟き、オフィスチェアに首をもたれかけた。腕組みをしてしばらく考えに耽っていたが、再び俺に向き合い、真剣な表情で告げた。 「この際だからハッキリ申しましょう。旦那さんと別れるか、息子さんと離れるか、どちらかを選んだ方がいい」 「は…………?」  予想だにしなかった言葉に、目を見開いた。  それは自分にとって死の宣告と同義だ。なんでそんな残酷なこと言われなきゃなんないんだ、と怒りが込み上げた。 「αとβとΩが同じ屋根の下で暮らすなんて不可能です。このままだと家庭崩壊は避けられない」 「あんたに俺たちの何が分かるっていうんだ。今までも3人で上手くやってきた。これからだって――」 「あの子はもう純粋で無害な小動物じゃない。ヒートが起これば容易に貴方を組み敷き、襲える高潔な獣――――一人のα男性なんですよ?」 「……だったら何だっていうんだ」 「10代は人一倍性欲も強くて多感な時期だ。いくら抑制剤を飲んでいても、発情期のフェロモンに当てられて理性を失ってもおかしくない。もしまた襲われて今度こそ番になったら? 避妊薬を飲まずに妊娠してしまったら? 一番ショックをうけるのは貴方の旦那さんでしょうね」 「ごちゃごちゃうるせーよっ!!!」  カッと頭に血が昇り怒声を発した。  何事かと看護師が数人駆けつけるが、先生は「大丈夫」と手で合図をして追い払った。  すぐに自分の醜態に気づき、謝った。  自分の隠したい所を探り当て、平然とメスを入れる先生の正論が、痛かった。 「……別に責めているわけではないですよ。三角さんも鵠君もそういう性を背負って生まれた以上、これは抗えない運命なのだから。――――以前、一度だけ旦那さんを連れて診察に来たことがありましたよね? 本当に貴方を大事にしているのだと、話しているだけで伝わりました。貴方もとても幸せそうだったのを覚えています。取り返しのつかなくなる前に、再考した方がいい。誰も悲しまないためにも」  「最初に話した避妊薬、処方しておきますね」と先生は付け加えて、診察は終わった。  俺は言い返すとこもできず、下唇を噛んで俯くしかなかった。

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