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第2話

鹿狩統久(かがりすべく)と名乗った男は、オレより少し身長が高くガッシリとした体格をしていた。 そして、胸元には5つの金のメダリオンと三つの銀のメダリオンが輝いている。それは、褒章であり実力を示すもので、オレでも銀を二つ得るのに苦労をした。 局長にしても、金を一つ取っているにすぎない。褒章の数だけ見れば、彼は副局長に収まるだけの器じゃないのだ。 それにしても、チャラけた態度で本当に気を逆なでするが、これがΩだと言うのだろうか。 しかも、鹿狩って苗字だ。 チラと隣に座る局長を見ると、呼吸が荒く顔が青白い。いつもは堂々としているこの人が、取り乱すのを初めて見た気がする。 「かがりんは、局長も鹿狩さんですからかぶるので、別の愛称を検討してください」 丁寧にドア側に近いショーンが、副局長に言い放つ。 ショーンは、ある意味真面目だけが取り得のイイトコのボンボンである。 「...…マジでか?」 ちょっと目を見開いて、男は軽く頭を下げてからこちら側に近寄り、局長のネームプレートを眺めると、意を決したように深く息を吐き出した。 「...……久しぶり、アユミ。10年ぶりかな」 軽い口調をやめて近づいてくると、見下ろした局長の様子に僅かに表情を強ばらせたのがわかった。 「...……お久しぶりです。統久兄様。施設に行かれてからお会いしていなかったので、てっきりご結婚でもなさっているのかと思ってました」 嫌味にすら聞こえる口調は、サバサバしているタイプの局長には珍しい言い方だった。 どうやら彼は局長の兄らしい。あんなにΩを毛嫌いしている局長の身内にΩがいるとは思わなかった。 「あ、ああ。……施設は1年経たずに追い出されてな。辺境警備隊に志願して、働きながら見合いしてたりしたんだが、中々貰い手がいなくてなあ。まあ、親父の見栄かしらねえけど、イイトコのαの坊やばかりで、30連敗。俺もイイ男だと思うんだけどね」 彼は全くΩであるという事を隠す気持ちはないらしい。 「それは大変でしたね。資料を見ると辺境警備隊で大活躍だったようですね。今回、本部に戻ってきたのはどういうことです?」 局長の棘を少し孕んだ物言いに、彼はため息をもらして斜め上を見上げて、 「海運捜査局は、エリートのαばかりだろ?親父がさ、種馬探してこいってね。神聖な職場でそういうことって乗り気じゃなかったんだけどさ、たったいまさっき気が変わったかな」 彼は、局長の横に立っていたオレの腕をグイッと掴んだ。 「俺の本能が、オマエが俺の運命のなんちゃらだと言っている。とりあえず今日からオマエは俺のバディだ」 は!?運命のなんちゃらって、なんだよ。 オレの知っているΩでこんな自信有り気なやつ見たことがなく、口をあんぐりあけて目を白黒させるしかなかった。

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