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第9話(最終話)

「あー。今になってめちゃくちゃ後悔してる。俺、超、逃げだしてぇ……」 柔らかな絨毯敷きの部屋で、シルバーグレーのタキシードを着て、黒豹は窓の外を見ながら呟く。 「ばーか。だから考え直す時間をあげたのに、するって言い張ったのは自分なんだからね」 ウサギの声が飛んできて、黒豹はげんなりした声を出す。 「おっしゃるとおり。すると言い張ったのは俺です。俺が結婚式を挙げたいと言いましたっ!」 「もうあきらめなよ。こんなに多くの人に注目されるなんて、人生で一回きりなんだから」 「お前、あれだけのギャラリーと神様の前で誓いのキスとかマジでできる?」 「僕、人前でピアノ弾くの得意だもん。キスくらい全然平気」 そう言って笑うウサギは真っ白なウェディングタキシードを着ていた。裾がふわふわ広がって、笑うたびに揺れる。その笑顔に黒豹の口許も緩んだ。 「そっか。もう一度だけ練習して腹を括るか。幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることをここに誓います」 「誓いまーす!」 背伸びをしても全く届かないウサギの口許まで身をかがめ、黒豹は丁寧な口づけをした。

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