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第4話 お城にて

「それでは会議を始めたいと思いますが――まずは王子! クロエ様を膝から下ろしなさい!」  宰相に指摘された王子――アーサーは、聞く耳を持たんとばかりに、ツンと顔を背ける。 「王子!」 「嫌だ。病で()せっていた妻と、久しぶりに顔を合わせたんだ。後三日は離さん」  断固としたアーサーの言葉に、宰相は溜め息をついた。  私としても、三日後にはまた『病』と称して、アーサーと離れなければならないのだから、可能な限りは一緒にいたい。  それに、今日の会議の内容は、どうしても聞きたかった。 「会議に口出しはさせぬし、外部に漏らす事も禁じている。だからクロエがいても構わないだろう」 「……せめて、隣の椅子に座らせてください」  妥協してくれた宰相に、アーサーは不満そうだったが、私は素直に頷く。  さすがにこれ以上の無理は言えない。  私は(なだ)めるようにアーサーの肩を叩き、隣に用意された椅子へ移動した。  もちろん、手は繋いで。 「……それでは、会議を始めます」  諦めた様子の宰相が司会で、部署ごとの報告が進んでいく。  そして―― 「先日、奴隷商を捕縛し、尋問にかけました」  その言葉に、思わずビクッと身体が震える。  ――私も、アーサーに助けられるまでは、奴隷だったから。 「クロエ……大丈夫か?」 「……クロエ様には、少し酷かも知れません。退室された方が――」 「……いいえ、私も聞きます。内容によっては、私の【影】を動かす必要があるかも知れません」  アーサーも宰相も何か言いたそうだったが、私は心配ないと首を振った。  アーサーがまず頷き、宰相もため息をついて会議を再開する。 「奴隷商の証言によると――昨今は侯爵以下の下級貴族の方が、オメガを売りにくる事が多いようです。名前は伏せられますが、血筋が確かならば、高値で売買されるそうです。特に、若いトラネコのオメガを奴隷に求める者が多数いるようです」 「トラネコ?」 「なんでも――アルファ種が多いトラ族と似た容姿をしながら……あぁ……その……」  報告していた犬族の男が急に言い淀み、三角の立ち耳をヘニョリと伏せて、チラリと私を見る。  私がオメガだから、オメガに対する暴言を躊躇(ためら)っているのだろう。  本来なら、部外者である私は口を出せないが、今は仕方ない。 「奴隷商やその顧客の思想を知る良い機会です。その思想が間違っている事は、この場にいる全員が知っています」  私が見回すと、アーサーを始め、会議に参加する者全てが力強く頷いた。  犬族の男もホッとして耳を立たせ、私に頷いて見せる。 「――わかりました。報告を続けます。え――アルファ種が多いトラ族と似た容姿をしながら、発情するしか能のないオメガ種のネコ族を虐げる事に、喜びを感じる者が――特に下級貴族の間に多いようです」  正直、胸くその悪い話だ。  だが、トラネコのオメガに縁があるため、むげにもできない。  会議が終わってすぐ、私はクロードの医局に電話した。  今日は手が空いているのか、それほど間を置かずに副医院長のブラウンに繋いでもらう。  簡単な挨拶を交わし、すぐに本題へ入る。 「――最近、変わった事はありませんでしたか?」 『変わった事……医局に関して、ではありませんが、誰かがジンジャーの事を調べているようです。医局の者も何人か、話を聞かれました』 「やはり……」  嫌な予感がする。  電話を終えた私は、急いでアーサーと宰相の所に行った。  【影】を動かすために――  そして三日後。  ジンジャーが何者かに誘拐されたと、医局から連絡が来た。

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