「え～普通……」 風呂上がりに水を飲みにリビングを通った時、そんな嘆きに顔を向けると妹の美奈が俺のスマホを弄っていた。 「俺のスマホを勝手に触るなって言っただろ?」 「え〜だって美奈まだ買ってもらえないもん。触られたら困るの?彼女の写真とか?」 「マセガキ……お前勝手にアプリ落とすじゃん。容量が無くなる」 美奈の手から取り上げると画面には『空閑 美奈さんの運命は……』と出ていた。 イラストが書かれている……無難に普通の男の絵。 「何だこれ?」 「運命を教えてくれるアプリだよ。将来の旦那様はこんな顔って絵も出て来るんだぁ」 ……本当に……小学生のクセに運命も何も…まだ早いだろう。 「お兄ちゃんのも調べて上げるね!!」 俺の手からスマホを取り返すと美奈はサササッと操作して…… 「ブッ!!!」 思い切り吹き出した。 「あははっ!!!お兄ちゃんも見てみてよ!!」 美奈の差し出したスマホの画面を見ると……。 『空閑 拓斗さんの運命は……』 そこに描かれていたイラストは金髪碧眼の整った顔の…… 「……男?」 「その先……その先も呼んで……」 笑いすぎて息も絶え絶えな美奈が指差す。 「運命の恋人の名前……『クラウス = ハインシュリック』」 「男で外国人っ!!!ツボるっ!!」 美奈は転げ回ってヒーヒー言っている。 俺はしらけた気分で続きを読んだ。 『クラウス様はストロバオム国の第1王子。王位の第1継承者であるが故、幼い頃から命を狙われ、英才教育を叩き込まれ窮屈な生活に心を閉ざしております。貴方の優しさで包んであげましょう』 王子……何このネタの宝庫。 どこから突っ込んでいいのか分からない。 「お兄ちゃん!!課金しよ!!課金したら続きが読めるんだよ!!」 美奈はケラケラ笑いながら課金を勧めてきたが……500円!? チャージした分が残っているけれど、こんなネタに500円は高い。 スマホを落として強制的にお終いにした。 お終いにした筈なのだが……。 何故か気になって眠れなかった。 布団の中で何度もアプリを開いては閉じて……。 何度やっても結果はクラウス王子が出てきた。 500円…500円……。 このモヤモヤが無くなるのなら……!! 意を決し『課金して続きを読む』のアイコンを押した。 確認画面に了承すると、出会いや結婚のきっかけ、結婚後の生活が書かれていた。 貴方と彼は、ストロバオム国の御神木パルミナの前で運命的な出会いをはたします。 運命の相手として半ば強制的に結婚を前提とした同棲生活が始まります。 なかなか心を開かない王子と衝突ばかりしていましたが、徐々にお互いを認め、必要な存在と気付き距離を縮めていきます。 ある事件に巻き込まれた2人は愛を確かなものにして結婚をします。結婚後は精霊に祝福され幸せに末永く暮すでしょう。 大まかな概要はこんな感じだった。 ストロバオム国ってどこだよ。 御神木パルミナって何? モヤモヤはスッキリしたが、現実に起こりえない未来予想に無駄遣いをした気分で眠りについた。