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第2話
朝、スマホのアラームに起こされた。
いつも通りに仕事へ行くため準備を始め……顔を洗っていると足元に飼い猫のネコがすり寄ってきた。
「どうした?今日は朝から甘えん坊だなぁ~お腹空いたのか?」
抱き上げるとスンスンと鼻を近付けてくるネコが可愛くて俺も顔を近付けた。
「ん〜ネコは本当に可愛いなぁ~」
目を閉じてチュッと唇をくっ付けた。
……あれ?
何か感触が何時もと違う……。
目を開けると……深いエメラルドに吸い込まれる。
「どわぁっ!!誰だよお前!!」
慌てて顔を離すと、くすみの無い金糸が床に散らばっている。
床に身を投げ出し、バランスの取れた顔立ちの男が俺を見上げている。
どうにも俺がイケメンの上に馬乗りになって襲っている様に見える……。
「貴様こそ誰だ……狼藉者」
イケメンが起き上がり、俺の体は後ろへ転がって頭を床に打ち付けた。
「いってぇ~…………え?」
体勢が逆転して俺の上に跨がったイケメンが見下ろしてくる……俺の首には……け……剣?
「え?本物……?」
玩具……だよな?
良くみれば男の服装は何かのゲームの様な衣装で……コスプレイヤーさん……かな?
「ここが何処だか分かって侵入してきたのか?」
「何処って……洗面所……じゃない!?ここ何処!?ネコは!?」
まさかネコがこのイケメンに変身した?
辺りを見回すとそこは見慣れた洗面所ではなく、真っ白な石造りの小部屋。
壁の一面が抜けていて外へと続いていて……大きな木が立っている。
慌てて首を動かしたので剣に触れた部分がスッと熱くなった……。
切れてる……本物の剣だ……。
自分の身に何が起こっているのか皆目見当がつかない。
「煩い、少し黙れ」
男の手が俺の体をまさぐり出した。
「何するんだよ!!」
……まさかのゲイ!?
しかし男は真面目な顔で俺の体をなぞり何かを確認している。
「……武器は……持っていなさそうだな……」
「武器って……」
扉がガンガンと叩かれる音が響いた。
「クラウス様っ!クラウス様っ!!扉をお開けください!!」
クラウス……クラウス?何処かで聞いた気が……。
「ちっ……やはり見られていたか……立てっ!」
「痛っ!!」
男は俺の腕を後ろへ捻り上げ、立たせると扉へ向かい取っ手に手を掛けた。
「クラウス様っ!遂に神子様がお越し下さったのですね!?」
ドアの向こうには数人の人間が立っていて、正面に立つ白髪の老人が喜色満面で興奮している。
「こんな冴えないガキが神子な訳ないだろう……ただの侵入者だ」
「いだだだっ!!」
拘束された腕を更に捻られて関節が悲鳴を上げた。
「しかし皆、拝見致しておりました。眩い光と共に神子様が現れ……クラウス様に口付けを与えるのを!!」
……は?神子って俺の事?口付け?
って、まさかさっきの感触ってやっぱりキス?
俺、こんな男とキスしたのかよ。
しかも目撃者ありで……男の顔を横目で観察すると……。
……あれ?
この顔どこかで……
「あぁっ!!お前っ!!クラウス=ハイン……ハインなんとか!!」
「クラウス=ハインシュリックだ……やはり俺と分かっていて襲って来たのか……誰に頼まれた?」
男はまた俺の腕を捻り上げる。
「だから痛いって!!」
男の深いエメラルドは綺麗なのに宿る光はどこまでも冷たい。
「うそぉ……こんなのが俺の運命の相手とか……あり得ない……」
占いを信じたくはないが、この状況はあの占いに沿ってはいる。
「神子様自ら『運命の相手』と仰っております!!早く!早く王へお知らせしろ!!」
背中を押され、俺は廊下へ転がり出された。
「……お前が何と言おうと俺は神子など信じない……」
「クラウス様、神子様にご無礼ですよ」
倒れた俺の体を誰かが起き上がらせてくれた。
クラウスは俺を一瞥すると、ふんっと鼻を鳴らしてその扉を閉じた。
「…………何なんだよ……一体」
訳も分からず暴力を振るわれ、神子様だ神子様だと騒ぎ立てる人達の中に放られて……どうしていいのかさっぱり分からず、俺は俺の体を支えてくれていた硬い腕を握りしめた。
「王子が失礼致しました、神子様」
顔を上げると……栗色の髪をした男性が微笑んでいる。
「えっと……」
「俺はクラウス王子の側付き、セルリアと申します」
グレーの瞳はどこまでも優しい笑顔……この人の方が王子に相応しいんじゃ……。
つい見惚れてしまった。
「セルリア殿!早く神子様を別室へ」
そう踏み出して来た老人の方へ背中を押され促される。
「セルリアさん……」
出来れば安心出来る笑顔の側に居たいんだけど……セルリアさんの顔を仰ぎ見た。
「俺はクラウス様のお側を離れる事は出来ませんので……大神官様は素晴らしいお方です。ご安心下さい」
子供の様に諭される。
確かにおじいちゃんも子供の様にはしゃいでいて悪い人には見えないけれど……。
セルリアさんと別れおじいちゃんに背中を押されて別室へ連れていかれた。
「ささっ……神子様、どうぞ此方へ……狭く苦しいところではありますが、王から指示があるまで此方でおくつろぎ下さいませ!」
古めかしいソファーへ押し込まれる様に座らせられた。
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