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第3話

おじいちゃんはやれ神子様にお茶だ、菓子だと騒いでいる。 これ……俺が神子じゃないって知ったら殺されるパターンかな? 「あ……あのぅ……」 「何でございましょう!何なりとお申し付けください!!」 勢いが凄すぎて……引いてしまうけれど、こういう間違いは早めに訂正しておいた方が良いよな……。 「えっと……その『神子様』?に全く身に覚えが無いんですけど……」 「何を仰いますか!!夜の空を宿した様な髪と瞳!そのような神秘的なお姿は他に見た事がありません!!」 日本人は大概こうだけど……周りを見渡すと確かに黒髪の人はいない。 「でも俺……本当にただの日本人で……」 「日本人!?日本人とは何ですか!?」 ペンと紙を持って凄い興奮した顔で俺に顔を近づけて来る。 「レイドナード、そのように興奮して詰め寄っては神子様が困惑しておられる」 「こ……これは……ガバル様」 また人が増えた……。 いかにも騎士って感じのガタイの良い男。 「神子様、初めまして。ガバル=ハインシュリックと申します」 手を取られ……甲に唇を押し付けられて、手からザワザワした虫酸が全身に走る。 引いた手を見えないよう背後で服で拭いた。 「ハインシュリックって事は……クラウスの……?」 「ええ……私はストロバオム国、第2王子です。王から承り神子様をお迎えにあがりました」 ストロバオム国……王子……どこまでもあの占いの通り。 じゃあ、やっぱりクラウスが俺の運命? クラウスとは違い終始笑顔のガバル。 ……でも何だろう?何か嫌な感じがする。 髪を引っ張られる様な感覚がして頭を押さえた。 おじいちゃんを見ると、クラウスの前とは違って黙り込んでいて……。 ガバルとは仲が悪いのかなぁ? 国とか言うくらいだから派閥とか……? おじいちゃんに気をとられているとガバルに腕を引かれ、肩を抱かれた。 「神子様は随分と華奢なのですね」 肩から腰をなぞられ……『生理的に無理』と言う言葉を知った。 俺、こいつ駄目だ。 こいつといるぐらいならクラウスの方がマシだ。 「……俺はここに居たい……」 おじいちゃんに視線を向け助けを求めるとと、おじいちゃんは肩を揺らした。 「神子様、どうぞ王とお会い下さいませ……」 「じゃあ……」 せめておじいちゃんと……と思ったが、この空気……言葉にしたらおじいちゃんの立場が悪くなるのは目に見えている。 「じゃあ、せめてクラウスと一緒が良いです」 クラウスなら王子同士だし、第1王子ならクラウスの方が立場が上なはず……。 俺がクラウスの名前を出した途端、寒気がした。 「それは残念です。可愛らしい神子様をエスコートできると勇んで参りましたのに……」 ガバルは変わらない笑顔だが……やっぱりこいつは要注意!! 俺の中の何かが警鐘を鳴らしている。 「クラウス様をすぐにお呼びしろ!!」 おじいちゃんはすぐさまクラウスを呼びに頼んでくれた。 …………。 ………………。 早く来いよ!あの野郎!! じっと見下ろしてくるガバルの視線に剣山の上で正座をするような緊張を強いられ続けている。 暫くして……漸く王子様が顔を見せた……が。 その表情は隠すことなく嫌悪感を露にしていて……救世主とはほど遠かった。 ・・・・・・ 「何故俺が……」 ブツブツ文句を言う王子の後ろを早歩きでついていく。 俺の後ろにはセルリアさんがついてくれている。 「何ではこっちの台詞だっつーの……」 ボソリと吐き出すと鋭い眼光に睨まれ身がすくんだ。 「こっちも迷惑だ。嫌ならさっさともと来た場所へ帰れ」 「……来たくて来たんじゃ無いんだ!帰れる方法があるなら帰るさ!!早く元の世界へ帰してくれよ!!」 「帰る方法なんて知るか。自分で探せ」 クラウスはまた前を向いて歩き出した。 むうっ……この野郎……。 クラウスの方がマシだと思ったけど……思い違いだったようだ。 こいつ、すっげぇムカつく!! 一人でプリプリしながらクラウスの後を追いかけるとセルリアさんが横に並んだ。 「神子様、お許しください。クラウス様は人見知りが激しいお方なのです」 「人見知りの域を越えてるよ……あんなのと解り合える気は全くしない」 先を歩くクラウスの背中を睨んだ。 大きな扉の前でクラウスが立ち止まり、横に立っていた騎士っぽい人に話をするとその扉が仰々しく開かれた。 この扉の先に王様が……。 王様と言えば、偉そうで……何か気にくわないことが有ったら直ぐに牢屋へ入れる……そんなイメージ……。 自然と背筋が伸びた。 「神子様~!よくぞおいで下さいました!!」 緊張していた俺の体は偉そうな椅子から飛び降りて来たおじさんに抱き上げられた。 このテンション……おじいちゃんと一緒だ! 「だから俺は神子なんて知らないって……「なんと!ではお話致しましょう!我が国に伝わるパルミナの伝説を!!」 王様は俺を抱えたまま王座へ移動して、後ろに飾られてある絵を誇らしげに指し示した。 『御神木パルミナ……この世界の全てに根を張り、この世界の全てに通ずる。正しき者には光を、悪しき者には闇を与え。パルミナの花が咲く時、奇跡を起こり、この国に幸福をもたらす』 「……しかし、ここ数百年……パルミナが花を咲かせたという記録は残ってはおりません。それは神子様が現れなかったからです!」 俺を抱える腕に興奮から力が籠る。 『パルミナが花を咲かせる時、神子が現れ王子と運命を共にする。王子と神子の愛のみがパルミナの花を咲かせる』 「あ……愛……ですか?」 こいつと……? クラウスを横目で見ると……苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。 「そう嫉妬するでない、クラウスよ。王家に産まれた王子はパルミナへの祈りを日課とし、神子様を待ち続けておりました!!神子様!!クラウスをどうぞ宜しくお願い致します!!」 王に王子を宜しくとお願いされ……拒否する間も与えられぬまま、俺とクラウスは山の上の小さいけれど豪華な建物へ運ばれた。

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