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第28話
子供の名前は結局『ミナ』と名付けられた。
普通の赤ちゃんの成長スピードは分からないけれど、一ヶ月程経って、ミナは体がだいぶんしっかりしてきた。
「拓斗……すまない、父がそろそろ煩い」
今まで王様からの呼び出しも訪問もクラウスが突っぱねていたらしい。
「どうしても会って拓斗に謝罪したいらしい」
「謝罪?何を?」
「さぁな……しかし結婚式も挙げたいし一度城に戻らないととは思っていた。ミナもスープぐらいなら飲める様になったし……そろそろどうかと思って」
「まぁ……確かに今まで王様に一度も挨拶に行ってないって方がおかしかったもんな」
ハイテンションな王様に会うのはちょっと面倒臭いけどミナのおじいちゃんでもあるし……。
「分かった……すぐ準備する」
城へ行く為の準備を簡単に整えた。
馬車で山道を下っている途中、
「拓斗少し寄り道していいか?」
馬車は城への道から脇道へと入って、神殿の様な場所に着いた。
そこには大きな女神像が立っていた。
「ここは?」
「……代々の王族の墓だ」
「王族……ユーグアス王子?」
「あぁ……そうだったな……」
ミナを見せに来たのかと思ったけど違うみたいだ。
……あ……クラウスのお母さんは亡くなってるって言ってた……。
「……お母さんの……?」
「まぁ……それもある」
……?
他に誰だろう?
誰に祈りを捧げているんだろう?
クラウスの人生全てを知ってるわけじゃないからな……。
おじいちゃんとかおばあちゃんかな?
静かに手を合わせるクラウスの横顔を盗み見ながら俺も手を合わせた。
「許せる事では無いが……」
クラウスがポツリと呟いた。
何が……とは聞ける雰囲気ではない。
ザザーッと風が吹き抜けて行った……。
「あれ……何で?……涙……」
自分でも気付かないうちに涙が頬を伝った。
「俺また何か忘れてる?」
クラウスを見上げる……クラウスは真っ直ぐ前を睨んだまま……。
「……ガバルの墓だ……骨すらないが……」
「ガバルの……ガバルは死んだのか?」
地方へ追放したって……。
視線を下げたクラウスは、しばらく黙り込んでいたけれど……拳を握りしめ、口を切った。
「……俺が……殺した……」
「クラウス……」
何で……なんて分かってる。
どう考えたって俺のせい。
「拓斗のせいじゃない……俺がガバルを許せなかったんだ」
……足元がグラグラ揺れる。
クラウスに抱きしめられ、自分の体が震えていた事を知った。
「俺は宰相やガバル……ガバルの母親から常に命を狙われていた……他にも裏でいろいろやっていた……因果応報だと思う。ただ……拓斗の心を傷付けたかった訳じゃない……もう拓斗に隠し事をしたくなかった……俺の罪も全て知っておいて欲しかった……」
クラウスの手に涙を拭われる。
「……あの日の事を知っているのは俺とセルリア2人だけだ……誰も知らない……乗り越えるべきは自分の心だけ……」
何となくお互い触れずに流していた真実。
それをこうして向き合おうとしてくれたって事は……ずっと一緒に生きていく為の通過儀礼。
「俺、眠り続けてる間……ずっと暗闇の中で泣いてて……目が覚めた時、全部あの暗闇の中に置いて来た。俺は大丈夫……今はクラウスと心が繋がってるって分かってるから……」
一人で乗り越えなければいけない訳じゃない。
「他人の物も、自分の物も……命なんて軽いものだと思っていた。でも愛すると言うことを拓斗が教えてくれた。俺はもう誰も殺めない……お前に誇れる王を目指す……俺についてきてくれ」
伸ばされた手を取った。
その手には新しく作られた黒い指輪が嵌められている。
俺の指には金色の指輪……。
遠く……遠い……回り道を繰り返した。
心は複雑に絡み合い、すれ違いを繰り返した。
指を絡め合い……。
視線が絡む。
腕の中でミナが自分も……と言うように手を伸ばしてくる。
繋いだ手を近づけると小さな手が乗せられる。
「……愛してる……」
どちらからともなく唇を重ねた時……風が……通り抜けた。
どこまでも広がって行く風が緑に光を与え……辺りの木々が一斉に花を咲かせた。
風に誘われるように沢山の精霊達が姿を現し世界に輝きを与えていく。
「ミナ?何かした?」
ミナを覗き込むと楽しそうに手を振って笑っている。
「マァマ」
「っ!!今聞いた!?『ママ』って言ったよね!?凄いぞ、ミナ!!」
ママと呼ばれた事が嬉しくてミナを抱き上げる俺を見てクラウスはクスクス笑っている。
クラウスだって『パパ』って言われたら絶対浮かれるくせに。
「愛の花が咲き……精霊の祝福を受ける……」
「何?」
馬車に戻ろうとして……立ち止まったクラウスが呟いた。
「言い伝え通りになったな……神子と王子はどうなるか覚えているか?」
言い伝え……レイドナードさんに借りた本で何度も読んだ。
「え?えっと……末永く幸せに暮らす?」
「そうだ……ずっと一緒だ……」
そう言ってクラウスは幸せそうに微笑んだ。
『空閑 拓斗さんの運命の恋人の名前 クラウス = ハインシュリック』
そんな言葉が頭に浮かんで……俺の腕の中で精霊を追いかけてはしゃぐミナの体を抱きしめた。
美奈……500円……課金した甲斐はあったのかな?
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