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 カーテンの隙間から差し込んだ太陽に目を細めながら、まだベッドで寝息を立てている最愛の男を気遣い、そっと身支度を整えた翼。 『RED企画』の社長の人脈で、AV男優を引退し、高野と共にモデルとして再出発したセイジの帰宅は日付が変わった頃だった。  ゆっくりと寝かせてあげたいと思う反面、見惚れるほどのその寝顔に導かれるようにそっと唇を寄せる。  薄い唇にチュッとキスをして翼は一人、堪らないというように微笑んだ。  今まで壁に貼られたポスターにキスを繰り返していた自分を自嘲する。もう、そんなことをしなくても憧れであり、恋焦がれていたセイジはすぐそばにいる。 「行ってきます……」  午前の講義に間に合うように家を出ようとした翼の腕が力強い手に引き寄せられる。 「うわぁ!」  ベッドに倒れ込んだ翼をすかさず押えこんだのは、眠っていたはずのセイジだった。 「セイジさんっ」 「キスだけで『待て』が出来るほど俺は賢くないぞ?」 「え……っ! でも……講義がぁっ」  端整な顔がすぐそばに迫り、翼は息を呑んだ。こげ茶色の瞳がうっすらと金色に変わっていく。こうなったらもう逃げることはまず不可能だ。 「翼……。愛してるよ」  何一つ隠すことなく全てを曝け出すセイジに、翼は照れながら再び唇を重ねた。  *****  目にすることの出来ない偶然は、時に何かに躓くように必然を連れてくる。 『出来損ない』と言われ自分を偽り続けてきた二人。でも……魔法の鏡の前では無力で、嘘偽りのない本当の姿を曝け出す。  力強い腕も優しいキスも、偶像ではない本物の温もりを感じられる。  ビデオの中でしか存在しなかった初恋の男。今は翼にとってかけがえのない魅惑的なポルノスター。 「聖司……さん」  憧れから現実へ――。新しい運命は溢れんばかりの愛と共に動き始めた。

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