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第8話
アラクネの集落の宿に着くと、エルフがウサギ獣人と揉めていた。
「ニンゲンを泊めるだと!? 集落が破壊されるぞ! 来たらすぐにつまみ出せ!」
「とんでもない! とても大人しくて礼儀正しくて良いお客さんですよ」
「ニンゲンは何もできないフリをして同情を誘っておいて人のつがいに発情するんだ。穢らわしい!」
どうやらニンゲンに滅ぼされた村の者らしい。アオバもちゃんと事情を知りたいと言ったのでケンタウロス姿で顔を出し、食堂で詳しい話を聞かせてくれるよう頼んだ。
彼の話ではニンゲンは初め森の中で武器もなく倒れていた。怪我をしていたので治癒して食事を提供したらとても礼儀正しく、礼を返そうとした。それが帰れないと気づいた途端、おかしな事を口走り、つがいのいない娘に発情して襲いかかり、止めたその娘の母親にも手を出そうとした、と。断られると次々と他の者に言い寄り辟易した、と。
戦闘力はなく、簡単に取り押さえられたが発情頻度が高く、迷惑なので村から追い出したら悪臭スライムをまとわりつかせて戻って来たと言う。臭い臭いと暴れまわり村のあちこちにスライムを撒き散らして村は住める状態ではなくなった、と。
……ただの愚か者では?
だが自分のつがいに発情されるなど穢らわしいにも程がある。だが……
「アオバはニンゲンだが私の運命のつがいで、帰れないと知っても悲しむばかりで暴れたりしない。まして誰彼構わず発情など」
「……すでにつがいがいるのか」
「まだ正式にはつがっていないが…… 私だけを求めてくれている」
「誰でも彼でもなんて! ……でも人間は運命のつがいを知りません。気に入った相手に好きになってもらおうと話しかけたり贈り物をしたりします。中にはそれが下手で相手に嫌がられてばかりの人もいます。その人もきっと……。知らない人ですが、同じ人間として申し訳ないです」
「……お前に責任はないな。悪かった。迷惑なニンゲンは森から追い出したから帰ったのかどうかも不明だ」
まだ帰れる可能性が無い訳ではない、と言う事か。アオバはどう考えるのだろう?
エルフとは和解したがエルフ用の部屋は一つしかないと言うので私たちは来た時と同じ部屋に泊まり、翌日にはすぐに宿を出た。塞ぎ込んで反応の鈍いアオバが心配で、帰路を急ぐ。
「おお、帰ったか。ご苦労じゃった」
「長、金の粒はかなり使ってしまった。余分に使った分は追い追い補充する」
「うむ。いつも通り頼む。アオバ、どうした?」
「………………」
「疲れたようだから詳しい話は後で」
「そうだな。ゆっくり休みなさい」
「ねぇ、リュカ。ぼく、帰り道でずっと考えてたんだけど…… ぼくをつがいにして下さい」
「アオバ! ……良いのか?」
「帰れる保証はないし、誰彼構わず誘っちゃって穢らわしい、なんて言われたら……」
「つがいのいないオメガが近くにいるアルファを誘うのは穢らわしいと言われないよ。運命のつがいに出会えないまま発情期 を迎えるとやり過ごすために近くのアルファに助けを求めるんだ。運命のつがいでもなければアルファが勝手に噛む事はほとんどない。それにそのアクセサリーを付けていれば安全だ」
「イヤなの! リュカ以外に触られるなんて考えただけでとても嫌な気持ちになるの!! だから……リュカだけのものにして……?」
「嬉しい事を…… 分かった。では次のヒートに……「今すぐ!」
アクセサリーを外し、必死に訴える姿は心臓を鷲掴みにされるほど愛らしく、その要求は嬉しいがヒートが来なくては噛んでもつがえない。そう説明したら泣き出してしまった。
「やだぁ……ぼく、どこに……いばっ……しょ……」
「どうしたんだ? なぜ泣く?」
「だって……っ!」
なだめて聞き出した理由はどこにも属さない自分が不安、との事だった。所属の証が欲しいと言う。
「それならアオバのトライバルタトゥーを探さないか?」
「……タトゥー?」
「どこかに浮かんでいるはずだ」
すんすん鼻を鳴らすアオバの涙をペロリと舐めると、驚いた顔で固まった。
「顔にはないな。首、耳の後ろ、うなじ……」
「ふにゃっ! や……! 近いよぅ……」
「オメガのタトゥーは小さいからな。手のひら、手の甲、足の指、足の裏……」
「擽ったい! そこ、ダメ! ふひゃっ!」
「足首、ふくらはぎ、膝裏、腿、内腿」
「は、あぁ…… ん……」
「背中か? 腹か? 胸か?」
「やだぁ…… 撫でちゃダメぇ……」
「尻にもない…… あとはここだけか?」
「そんな! それ、恥ずかしっ!」
「……見つけた。こんなにいやらしい所にあるなんて……」
「……あったの?」
「ほら、ここだ」
アオバのタトゥーは親指と人差し指で作った丸くらいの大きさで、足の付け根、陰嚢にほど近い場所にあった。今まで気づかなかったのはアオバが恥ずかしがるからあまり見過ぎないようにしてたからか。
「こんな所に……?」
自分のタトゥーを頬を朱に染めて驚きの表情で見つめるのが愛らしくてタトゥーに口づけをした。
「ふぅぅん……っ!」
「ん?」
「あ…… ん…… はぁっ……」
タトゥーを舐めるとアオバが甘い声を漏らし、良い香りが漂う。これはもしや……?
「はぅんっ! あっ、あっ、あっ…… んう!」
少々強めに吸い上げればはっきりとした発情臭。そっと触れればとろりと溢 れる愛液。
「つがって、良いか?」
「嬉しい……リュカぁ……あぅん!」
指一本、挿し入れただけで前からも後ろからもこぷりと溢 れる甘露。
ヒートの始まった身体は熱く芳しい。
口づけをねだられ、口内を蹂躙しながら後孔をほぐすと短時間で用意が整った。
「アオバ、本当に良いんだね?」
「うん。身体…… 熱くて…… 疼いてるけど、頭ははっきり、してるの。リュカが欲しい、リュカのものになりたい、って」
「アオバに永遠の愛を誓う。必ず幸せにする」
「ぼくもリュカを幸せにする。大好きだよ……ぐぅっ!」
「すっ、すまない!」
アオバの素直な言葉を聞いて喜びのあまり強く抱きしめてしまった。アオバはか弱いのだから気をつけなくては。
アオバの前ではどうにも締まらない私だが欲してくれる。催促する視線に促され、思いを遂げた。
絶頂するアオバに精を注ぎながらうなじを噛んだ。滑らかな肌に浮かぶ赤い露。口内に広がる血の味と甘い香り。そこに私の匂いが混じる。
これで私のものだ。
私はアオバのものだ。
互いの匂いと快楽に酔いしれながら溶け合うように何度も交わった。
半年後、アオバがアルファを生んだ。
アオバ似のケンタウロスでマッティアと名付けた。
「まぁま、しゅき〜!」
「ママもマッティアが大好きだよ」
「私もアオバが大好きだ」
「ぱぁぱ、め! まぁま、まちあの!」
「私のアオバだ」
1ヶ月も経つと言葉を喋り出し、隙あらばアオバを独り占めしようとする。正式につがって安心して独占できると思ったのに、息子ながら油断ならない。
「もう! 張り合わないの! ほら、ご飯食べよう?」
アオバの美味しい料理は村中に広まり、誰かが大鍋と鉄板を買ってきて祭りの食事が豊かになり、何かにつけて祭りだ宴会だと盛り上がる。里の仲間の絆が深まった。
器用なアオバは羊の毛から糸を作り、服を作る。アラクネの織物でも動物の皮でも作るが用途が違うらしい。織物は肌着や夜着で動物の皮は柔らかさによって肌着になったり上着になったり。羊の毛はせーたーで肌着と上着の間に着る。硬く叩いた羊毛を底にして皮を組み合わせたブーツには驚かされた。蹄 がないと地面は痛いものだと知ったのが最近なのだが、ブーツやサンダルを履くと全く痛くない。
アオバはマッティアにもブーツを作ってやっている。
蹄が大人よりは柔らかく削れやすいからだが、それを見て欲しがる他の子供達にも作ってやった。見た事もない色合いの蹄の子供達が里を走り回るのはなんとも不思議だ。
これが当たり前になった頃には次の子供が生まれるだろうか?
次はアオバを奪おうとしない子供が良い……と言ったら「リュカのあまえんぼう!」と言われた。
……あまえんぼう。
アオバ以外使わない言葉だが嬉しそうにマッティアに言っているので悪い意味ではないだろう。それに本音を言えばアオバを取り合うのは楽しい。他の者なら不愉快だろうがアオバに似た姿の我が子だからか。
「リュカ。ぼくをつがいにしてくれて、マッティアを授けてくれてありがとう」
「アオバの幸せが私の幸せだ。アオバ、私を選んで幸せになってくれて感謝する」
いつかマッティアが本当の恋をするまで、アオバの奪い合いを楽しもう。私たちに愛されて喜ぶアオバを見ながらいつまでもこの幸せに浸っていたいと強く願った。
〜終わり〜
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