1 / 31
第1話*
ふっ、と男が行燈 の灯 を吹き消した。色濃い闇が立ちはだかり、部屋全体に満ちていく。頼りとなるのは障子越しに入ってくる月明かりだけ。ほのかに青白い光が、やけに眩しく感じた。そうか、今夜はちょうど満月なのか。
「ああ、この香り……たまらんな」
男が鼻息荒くこちらににじり寄ってくる。
部屋の空気が微妙に揺れた。蝋燭 の燃え残りの臭いが、由羅 の鼻をツンと刺した。
だがこの微妙な臭いに男が気付くことはない。男は今、由羅から放たれる甘い香りの虜になっている。もうすぐ我を忘れてこちらを組み敷いてくるだろう。
(……醜い)
男の毛むくじゃらな手が無遠慮に内腿 に伸びてきた。不快な臭いが充満し、由羅の全身に鳥肌が立った。
美食に耽る五十男は脂ぎっている。初老をとうに過ぎ、領主として城に居座り、あくせく動き回ることもない。そのくせあらゆる欲望――特に、食欲・性欲は旺盛で、「猪」だの「豚」だのと揶揄する者までいるくらいだった。そんな男に、由羅はまた犯されるのだ。
「好文 様、おやめください」
強めの口調で諭してみたが、やはり無駄だった。
ガタン、と寝床に引き倒され、乱暴に寝間着を剥ぎ取られる。片膝を使って強引に白い太ももをこじ開けられ、戸惑う間もなく、その奥で潤っている秘蕾にぐっ……と楔を突き立てられた。
「う……っ!」
思った以上の衝撃と共に、男のものが体内に侵入してくる。分泌された腸液が滑 りをよくしているとはいえ、いきなり挿れられるのはさすがに苦しかった。
「おお……まさに名器よ」
情欲を滾 らせ、男が一気に奥まで押し入ってくる。脂肪太りの巨体が覆い被さってきて、容赦なく腹の底を突き上げられた。
相手の熱量に当てられながら、由羅は眉根を寄せた。
まるで獣だ。我を忘れたように熱っぽい息を吐き、髪を振り乱し、声を上げる。既に男の理性は失われていた。由羅の放つ甘い香りに囚われ、すっかり夢中になっていた。
「っ……!」
静かに苦痛に耐えていたら、目の前の男が低く呻いた。中に食い込んでいる欲望が一回り大きくなった。
気配を察し、由羅は大きく首を振った。
ともだちにシェアしよう!