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戸惑い揺れる揺らされている19

佐々木の口から唐突に修平の名前が出てドキッとした。 「え?しゅ…小川さん?いや、来ないですけど」 「そうなの?車、駐車場に停めに行ったんじゃないんだ?」 拓斗は目を見開いた。 ……車……って…… 「乗ってたでしょ?拓斗も。昨日から2人で何処かに出掛けてた?」 佐々木は言いながら1歩近づく。拓斗は思わず、1歩後退った。佐々木は足を止め、首を傾げると 「小川くんと、付き合ってるの?」 咄嗟に首を横に振っていた。 「ただの友人、ってわけじゃないよな?拓斗。彼と、やっぱりそういう関係?」 拓斗は、冷蔵庫からアイスティーのペットボトルを取り出し、グラスに注ぎ入れた。 チラッと奥の部屋の方を見てから、ため息をつく。 部屋の前の通路で、あんな話をいつまでもごちゃごちゃしていたくなかった。このアパートの壁は薄いのだ。隣の部屋の住人に話の内容が筒抜けになってしまう。だから、気は進まなかったが押し切られる形で、佐々木を部屋にあげてしまった。 さっき佐々木は、否定しても妙に断定口調で問い詰めてきた。おそらく、さっきアパートの前で車を停めていた時、見られていたのだ。寄りにもよって佐々木に。会社の先輩に。 ……修平の、ばか… 2人で一緒に車に乗っているぐらいなら、何とでも説明出来る。でもきっと佐々木は、自分たちがキスしているのを見たのだ。そうじゃなければ、付き合っているの?なんて聞いてくるはずがない。 うちの会社は、社内恋愛に関してはそんなにうるさくはない。実際、社内恋愛の末に結婚している上司も何人かいるし、総務や経理の女の子と付き合っている先輩もいる。同じ部内の場合は配置替えがあったり、地方の営業所に転勤になったりはするが、タブー視されたりはしていない。 だがそれは、男女の恋愛の場合に限るのだ。 どちらかと言えば、古い体質の残る社風だし、部長以上の人間は頭の固い昔気質な人間が多いから、同性の恋愛に関してはあまり寛容とは思えない。 修平が人一倍気にしいだったからというのもあるが、前に付き合っていた時は、拓斗も会社の人間には絶対に気付かれないように、細心の注意を払っていた。 ……何て答えたらいいんだろう……。 あんな所を見られたのなら、下手に言い訳しても無駄な気がする。素直に認めてしまう方がいいだろうか。佐々木には、変に嘘をついて隠すよりも正直に打ち明けた方がいいような気もするのだ。 ……気が重いなぁ……。 拓斗は再びそっとため息をつくと、グラスをトレーに乗せて、佐々木の待つ奥の部屋へと向かった。

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