163 / 164

戸惑い揺れる揺らされている18

「え……っと、あの」 佐々木のちょっと思い詰めたような眼差しに、拓斗はますます困惑した。 ……時間あるか、って……。 チラッと自分の部屋のドアを見る。 本音を言えば疲れているし、早く部屋に入って1人きりになりたい。でも、眠る時間にはまだだいぶ早い。 「研修のことなら、あの、俺もう大丈夫なんで、」 「違うよ。仕事のことじゃない。プライベートなことだよ」 佐々木は強ばったような表情を少し和らげ、苦笑した。 ……プライベート……って……。 こないだ酔った時にこぼしていた愚痴のことだろうか。佐々木は何か悩み事を抱えているような様子だった。具体的な話はほとんどしなかったが、人間関係で何かトラブルがあるようなニュアンスだったと思う。 ……うわ……。ちょっと今は、きついなぁ……。 佐々木のことは先輩として尊敬しているし、面倒見が良くてすごくいい人だと思う。こちらとしても、何か悩んでいるようなら愚痴を聞くぐらいはしてあげたい。ただ、先日のアパートでのこともあったし、このところ急に会社の先輩としての佐々木との距離感が、ちょっと微妙な雰囲気になってきている。 ……仕事とプライベートは……出来たら分けたいんだけどなぁ……。 プライベートであまり親しくなり過ぎると、もし感情の行き違いがあった時に仕事にも支障が出てしまう。 修平との付き合いで1度手痛い失敗を経験しているので、そういうのはなるべく避けたいのだ。 「あの、佐々木さん、俺、」 「そんなに時間は取らせないよ。おまえにちょっと言っておきたいことがあるから。な?」 口調はソフトだが、有無を言わせぬような響きがある。普段、あまり意見の押し付けをして来ない佐々木にしては、珍しい態度だった。 「あ……じゃあ、ちょっとだけなら……」 何となく気圧されて強くは断れなかった。 自分のこういう優柔不断なところが嫌いだ。 「ありがとう。拓斗」 ホッとしたように微笑む佐々木に、曖昧に微笑みを返す。 「じゃあ、近くの喫茶店とかファミレスとか、行きましょうか?」 拓斗がおずおずと切り出すと、佐々木は意外そうな顔をして 「ああ……いや、わざわざ出掛けなくていいよ。あ……そうか。誰か……いるのか?」 佐々木は言いにくそうに口篭り、部屋のドアの方を見た。 ……え……。それって……。 どこかに一緒に行くのではなく、部屋にあげてくれと言っているのだろうか。 拓斗はつられて自分の部屋のドアの方に視線を向けた。 「や。誰も、いませんけど」 「じゃあ、これから来るの?小川くんが」

ともだちにシェアしよう!