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「先輩ってなんか好きなのあります?」
「好きなのって……どういうの?」
「んー、例えばアイスのフレーバーとか」
「チョコミントかな」
「へぇ意外。俺あんまり得意じゃないんですよね」
「歯磨き粉みたい?」
「そうそう。好み分かれますよねー、チョコミントって」
まずは他愛ない話をして警戒心を削ぎ落とす。きっと忍はご褒美についてもんもんと考えているだろうから、それを一旦忘れてもらわなければ。
握っていた手を話す。
忍は片谷に握られていた方の手をもう片方の手で摩り、不思議そうに顔を傾けていた。
思いのほか自分の手が温かかったからだろうか。
この人の手は、柔らかいのに冷たい。
「片谷って……」
「ん?」
「婚約者とかいないのか? あの会長の家とも交流があるなら、それなりに大きい家なんじゃ」
その問いに、つい微笑してしまう。
婚約者という存在がありながら忍とつき合う真似をするなんて、そんな馬鹿げたことはしないというのに。
「いませんよ。いや、いましたって言った方がいいのかな?」
「……いたのか」
「はい。高校あがるときに首席で合格するのを条件に、ね。まあ俺の好みではなかったですし」
「……おまえの好みって」
「先輩ですよ?」
片谷の返答に忍が大袈裟なため息を吐いた。好みでもない人に告白をする趣味はない。
にしても、先輩と過ごす時間は心地がいい。邪魔するものが一切ない。
ずっと続けば、いいのに。
「そうゆう先輩は、好きなタイプとかないんですか?」
「んー……特に、は」
「ふぅん……男性も平気?」
「わからない。でも……おまえとキス出来るってことは、いけるってことなんじゃないのか」
「それは、俺限定? それとも、不特定多数の男?」
「……んなの、まだ知らない。わからないよ」
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