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第5話 グレンの特技
シュレンジャー一家は、まるで親戚の子供のようにシリルを扱ってくれた。特にグレンは、同じ年頃の友達が出来るのが初めてのようで、どこに行くにもシリルと一緒だった。
「ほら、この前言ってたキノコ。オレンジ色で綺麗な水玉模様をしてるだろう?」
久々に晴れた日に、グレンが森で見付けたという派手な模様のキノコを自信満々で紹介した。少し離れた切り株の根元に生えたキノコは、自然界ではあまりにも目立つ。
「これはシビレタケだ。神経を壊して体の自由が利かなくなる作用がある。猛毒だから、さわってもいけない。毒薬を作るなら別だけど」
「……そっか。綺麗だと思ったんだけど食べるのには向いてないんだな」
肩を落としたグレンが、鞄からノートと色鉛筆を取り出す。
「じゃあ、忘れないように絵を描いて残しておくのはいいか?」
「いいアイデアだと思うよ」
オレンジのキノコをじっと観察したグレンが色鉛筆を走らせてゆく。シャッ、シャッという芯が削れる音だけが静かな森に響く。手持ち無沙汰になったシリルは食べられそうな山菜やキノコを探しに、でもあまり遠くに行かないほどの距離を見て回った。両手に乗るほどの山菜を摘んで切り株に戻ったとき、まだグレンは絵を描いていた。背後に立ったシリルのことなど眼中にないようだ。
(ずいぶん集中してるんだな。話しかけたら悪いかな……)
どこまで描けているのだろう、とスケッチを覗き込むと、そこにはまるでもう一個キノコがあるように見えた。
「……すごい、本物みたいだ! グレン、きみってすごく絵が上手なんだね」
突然大声を出したせいか、グレンが誇張でなく飛び上がった。目を大きく見開き耳を立て、シリルを見つめる。尻尾の毛が、ブワッと根元から大きく逆立ってしまった。
「シリルか。びっくりした」
「ご、ごめん。狸みたいに尻尾が大きくなっちゃったね。どうぞ、続き描いて」
「ああ。あと少しで出来上がりだ」
しばらくすると、紙に映されたシビレタケが完成した。この絵を森に置いておくと、本物と見間違える者がいるのではないかと思えるほどの素晴らしい出来映えだ。
「グレン、すごい特技を持ってるんだね。僕はこんなに見たままは描けないよ」
「おだてるなよ。……でも描くことは好きだから、昔よりもましになってると嬉しいな」
尻尾が空を向いて、ピンと立っている。しばらく一緒に過ごして気が付いたが、シュレンジャー一家は尻尾と耳で今の気持ちが少し分かるのだ。立ち上がり上を向いた尻尾はご機嫌で、さっきのように毛を逆立てて膨らむと警戒、ブンブンと振り回すときは不機嫌というふうに。馬に乗って家路に向かうとき、「家にはこれまで書きためた絵がスケッチブックに何冊もある」とグレンが言うので、即座に「見たい!」と返す。グレンは鼻髭をピンと伸ばして「いいよ」と答えてくれた。これもご機嫌のサインだ。
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