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4章 7話 譲れない思い

「砦にいる時話をしたはずだ。砦だけではない、山から下りる時にも言ったな? リト」  怒ったような顔でキトが言うけど、僕は納得できない。このままセナの傷を放置すればそこから腐っていってセナは死んでしまう。今すぐに治療しないと! 助けることが出来る能力を持っているのに助けないなんてことできない。 「このまま放置してたらセナが死んじゃうよ!」 「分かっている。だが、ここで上級魔法を使うことは許可出来ない」 「じゃぁどこなら良いって言うの?」 「砦に一度帰ろう。帰ってから魔法でセナの傷を完治させる」  駄目だ駄目だ。それじゃぁ間に合わないかもしれない。ホノメの町からここに来るまでに五時間はかかったしホノメの町に着くまでだって魔物が出てきて戦闘したからホノメの町に着くまで三時間はかかった。魔馬車だって揺れて座っているのも大変だった。それにあの振動がセナの体にどう言う影響を与えるか分からない。だからここで治したほうがいい! 「動かすのは駄目だってロササさんが言ってたじゃない」 「それでも、だ。お前が上級魔法を使うのを見られたら……」 「僕はここで治した方がいいと思う! もし間に合わなかったらどうするの?! キト、お願い。僕に上級魔法を使わせて」 「駄目だと言っている。ここで使えば皆にお前の能力がバレてしまう。バレてしまえば何を言われるか……」 「キトが何を言ったって僕は治すから!」 「リト!」 「キトさんリトさん言い争っている時間はなさそうです。セナさんを見てください」  いがみ合っていた僕とキトの元にシヴァさんの硬い声が届いた。慌ててセナを見ると、青かった顔が白を通りこしていて唇は淡い紫に変わっている。これ以上いけばセナは本当に死んでしまう。   「キト……」 「……っ」  大きなため息を吐いたキトが僕の顔を見てからセナを見て頬を撫でた。 「分かった。ここで治す許可を出す。だが、皆に話してからだ。完治した姿を見れば何を言われるか分からない」 「うん」 「シヴァ、悪いが皆を呼び戻してくれないか?」 「分かりました」  緩く笑ったシヴァさんが背中を向けて部屋を出ていく。僕はその背中を見てからセナに中級の回復魔法をかけてみた。だけどさっきみたいに思うように魔法が行きわたらない。下級魔法でだめだからと思って中級にしたのに……。     ***  バエクさん以外が部屋に戻ってきてキトの「皆に話がある」の言葉に誰も口を開かない。 「これから俺が話すことは他言無用に頼む」 「他言無用? それは誰にもってことかしら?」 「ああ。家族であろうと、信頼できる者だとしても誰にも」 「そう。ま、いいわ。現時点で確約出来るか分からないけど」 「確約してもらわねば話すことは出来ない」 「それほど重要な事なの?」 「ああ」  緊張したようなキトの姿にヨハナさんが身動ぎしてユシュさんに目を向ける。ユシュさんはヨハナさんに頷くとロササさんとメルルとウルルに顔を向けた。 「何かは知らないけど、僕はいいよ!」 「まぁ、ヴィヌワは掟が多いしねぇ」 「掟? 掟と関係あることなのかしら?」 「掟とは関係ない」 「そう。分かったわ。ここで聞いたことは誰にも言わない。これでいい?」 「ああ」  僕は皆の話を聞きながらベットに改めて寝かされたセナに回復魔法を時折かけるけど、どうしても魔力だけが零れ落ちていく。  ベットに浅く腰かけたキトが皆を見回してから話始めた。 「リトは、産まれもった能力がある。……それは、切断された手足や体の部位を再生する能力だ」  少し躊躇って言ったキトの言葉に皆の反応はそれぞれ違った。ヨハナさんとユシュさんは首を傾げ、メルルとウルルとロササさんは目を見開いて驚いている。キャリロの人がそんな反応をするのが変で僕は首を傾げた。 「あの伝承は本当だったんだぁ」 「伝承?」  呑気なメルルの声にキトが素早く反応した。 「キャリロのじぃさん連中がよく言ってたんだよねぇ。ヴィヌワの中に癒しの神子が現れるってぇ」 「あ! それ僕も知ってる! なんだっけ……えーっと~」 「山に危機が訪し時、癒しの神子が現れる。だったかなぁ……」 「何よそれ、あたし聞いたことないわ」 「山に住んでるキャリロの中では有名なおとぎ話だよ! 僕もおじいちゃんによく聞かされてた!」 「僕もだねぇ。寝る時によく聞かされてたなぁ」 「詳しく話すことは出来――」  キョリロの兄弟ののんびりした会話にヨハナさんが割り込んだ。でも僕が気になるのはキャリロの二人ではない。目を見開いて固まったままロササさんが僕をずっと見ているのが気になる。  そして次の瞬間、ロササさんが僕の目の前にいて僕の手を取っていた。ロササさんと僕との距離は案外離れていたのにな? 周りの皆はロササさんのそんな様子に驚いている。 「神子様がお産まれになられていたのか。……なんと、なんと……」 「ロササさん?」  肩を震わせて俯いたロササさんの言葉はあまり聞こえないけど、いったいどうしたんだろうか? 「待っておりました。お産まれになられる時を」  ばっと顔をあげていったロササさんの言葉に首を傾げる。待っていたって、どういうこと? キトに顔を向けてみるけど、キトもロササさんの言葉の意味が分からないのか肩を竦める。 「ずっとずっと待っておりました。貴方様がお産まれになるのを。神子様、どうかどうかこの草原でも力をお貸しください」  僕の手を握っているその手はしわくちゃで、その手にこんな力があるとは思えない。なのに、握られている手が痛い。  対応に困った僕がシヴァさんを見ると、シヴァさんがロササさんの手をゆっくりと解いてくれた。手を擦りながらロササさんを見ると、その目には涙が浮かんでいた。

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