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Ⅰ 零⑧
ズキズキ痛む鼓動が治まっていく。
どうして……
あんなに嫌だったキスが、蕩けるように優しい。
唇を啄んで、舌を突っついて、絡めて、どちらのものなのかも分からない唾液が口の端 から伝っている。
でも、まだ足りない。
足りなくて、恐る恐る……恥じらいながら舌を差し出すと、舌を絡めてくれる。
クチュクチュ、ジュクジュク
卑猥な水音を奏でて、俺を受け入れてくれる。
「はうぅ~」
切なくて、喘ぎ声が漏れてしまった。
聞かれた?
チュク
声さえ愛しく包んでくれる。
濡れた音で下が奏でて、吸い寄せて、熱く熱く絡め取られる。
息遣いさえも。
俺は、どうして……
体躯を割って差し込もうとした腕を持ち上げられる。
違う。
拒んだんじゃなくて。
「薬っ」
飲まないと、俺は。
「必要ないでしょう。あなたの発作は治まっている」
「うん……」
こくりと頷いた俺は、どうしてこんなにも素直になってしまったんだろう。
薬が要らない。
飲まないと……
俺の体は……
「発情するんでしょう」
呼吸も鼓動も止まってしまいそうな体を、逞しい体躯が抱き止めた。
「珍しいですね。発情期のあるαとは……突然変異でしょうか」
知られてはいけない。
俺は、このせいで……
逃れたい。
なのに、逃してくれない。
「あなたを離さない……と言ったから」
その腕が、俺を手繰り寄せる。
蒼穹の眼差しが俺を捕らえていた。
俺をもう、どこにも行かせないと。
なぜ……
俺は、このせいで。
発情期のせいで。
(子の国の……)
「あなたですよ」
あなた、だから。
「どんなあなたも、私の物にしたい。そうすれば……」
あなたは、
「私から逃げられなくなる」
俺は、出逢ってしまったんだ。
俺の全部を受け入れてくれる、お前は……
「運命のΩです」
蒼穹の瞳に包まれる。
お前が俺の……
運命
「あなたを犯す唯一のΩです」
……………………え。
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