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Ⅰ 零⑦

唇が熱い。 口内を掻き回す。ドロドロに。 お前はなんだ! 俺の中に勝手に入ってきて。 掻き乱す。 お前はなんなんだ? 「そんな事を気にしている余裕があるんですか」 唇は意地悪に弧を描いた。 「こんなキスで動揺している場合ですか?」 唇ごと呼吸を奪われる。 後頭部を優しく包む手はない。 押し付けられているのは、熱の残滓。発砲の痕跡の残る銃口だ。 抵抗すれば殺される。 (だが) この至近距離で発砲すれば、この男だって死ぬぞ。 なにを考えている? 「なにも……」 「えっ」 ようやく唇の枷が外れて、酸素を掴むようについて出た言の葉は宙をさ迷った。 ハァハァハァ…… まだ呼吸が濡れている。 鼓動が収まらない。 熱を帯びた体が…… (もっと熱をッ) いけない!体がッ 「動くな」 瞳孔に突きつけられたのは、鈍色の銃口だ。 「違う、薬をッ」 薬を飲まないと、俺の体は…… 「飲まないと、どうなりますか?」 「そんなの……」 言えない。 言える訳ない。 「私もまだ、あなたに教えていませんでしたね。残りの銃弾の数を」 カチリ トリガーの無機質な金属音が反響した。 「一発だったら、上手く避けたら逃げられるかも知れませんよ」 だが。 二発目が装填されていたら…… 「銃弾はあなたの心臓を貫く」 引き金は容赦しない。 フフフ…… そうか、そういう事か。 フフフフフフ…… なるほどな、分かってしまったよ。 フハハハハハハーッ 「気でも触れましたか。なにを笑っているのです」 「お前を、だよ」 零 お前は既に、 「手の内を見せているんだよ」 「言っている意味が分かりませんね。あなたは私の手の中だ。チェックメイトです」 「違うな、零。お前は間違っている」 言っただろう。 お前は、 『俺を離さない』……と。 「俺を離さないお前が、自ら俺を手離す訳ないじゃないか」 俺は、最初からこうすべきだった。 この銃口を 手繰り寄せて胸元に突きつける。 心臓の鼓動が奏でる場所へ、自ら。 「チェックメイトだ」 カリンッ 割れるような()で、トリガーが鳴いた。 「あなたは、なにをやってるんだッ!!」 男の指に指を重ねて引いた銃口は火を噴かない。 「俺の勝ちだよ」 「勝ちとか負けとかの話じゃなくてッ」 あなたは、どうして…… 「……死を恐れてください」 掻き抱かれた頭を無理矢理、厚い胸板に埋められた。 聞こえる。 トクトク ドクンドクン 左胸の心臓の音が、鼓膜に打ち寄せてくる。 「引き金を引く気はなかった。あなたの言う通りです。だが、銃弾が入っていない確証はどこにもない!」 弾倉には、鉛の弾が込められていたかも知れない。 「あなたは死んでいたかも知れないんだッ!」 例え、それでも…… 良かったよ。 俺の命は子の国のもの 勝利しなければ、生き延びる価値のない命だ。 「あなたは間違ってますよ、音緒」 あなたの命は、あなたのものだ。 それでも、まだあなたがその考えを捨てないなら。 「私が奪います」 あなたの命を 私の物にしてしまえば、あなたを守る事ができるから……

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