13 / 35

Ⅱ 天高く①

腕を持ち上げられて、体躯を膝の上に乗せられた。 「脱出します」 《アヴァロン》が落ちたのは、鳥取砂丘地下最下層だ。 ここは、なにかの実験施設だったのだろうか…… 薬品の臭いが鼻孔をつく。薄い明かりに浮かぶのは獣の模型……それとも生体標本か。 かつて日本国と呼ばれたこの地に、こんな施設があったとは。 施設に零しかいなかった事から考えると、テロ組織とは無関係だろう。 (零がテロ組織と繋がっている可能性は否定できない) だが、考えたくない。 (旧日本軍が放棄した施設であってほしいな) 本国へ帰ったら、施設の調査の必要がある事を上奏しよう。 「帰しませんよ。あなたをあの国へは」 「なにを言ってるんだっ」 俺が帰らねば。 旧日本国のテロ組織掃討の命令を受けたまま、世界連邦政府ゾディアック5thが行方不明になっているんだぞ。 世界秩序を揺るがす事態になり兼ねない。 「だとしても」 蒼穹の瞳が俺を吸い込んだ。 「世界を壊してでも、あなたを守る」 お前は、どうして…… 運命、だから。 「これでは答えに不足ですか」 「しかし」 「あなたは自分よりも世界が大切ですか」 「そうだ。俺は世界連邦政府ゾディアック5th」 「音緒の名はどこにある!」 あなたは、消えるんですよ…… 「本国に戻った瞬間。あなたはゾディアック5thでも、αでもなくなる。『音緒』の名さえも奪われて」 それが『贄堕(にえお)ち』だ。

ともだちにシェアしよう!