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Ⅱ 天高く①
腕を持ち上げられて、体躯を膝の上に乗せられた。
「脱出します」
《アヴァロン》が落ちたのは、鳥取砂丘地下最下層だ。
ここは、なにかの実験施設だったのだろうか……
薬品の臭いが鼻孔をつく。薄い明かりに浮かぶのは獣の模型……それとも生体標本か。
かつて日本国と呼ばれたこの地に、こんな施設があったとは。
施設に零しかいなかった事から考えると、テロ組織とは無関係だろう。
(零がテロ組織と繋がっている可能性は否定できない)
だが、考えたくない。
(旧日本軍が放棄した施設であってほしいな)
本国へ帰ったら、施設の調査の必要がある事を上奏しよう。
「帰しませんよ。あなたをあの国へは」
「なにを言ってるんだっ」
俺が帰らねば。
旧日本国のテロ組織掃討の命令を受けたまま、世界連邦政府ゾディアック5thが行方不明になっているんだぞ。
世界秩序を揺るがす事態になり兼ねない。
「だとしても」
蒼穹の瞳が俺を吸い込んだ。
「世界を壊してでも、あなたを守る」
お前は、どうして……
運命、だから。
「これでは答えに不足ですか」
「しかし」
「あなたは自分よりも世界が大切ですか」
「そうだ。俺は世界連邦政府ゾディアック5th」
「音緒の名はどこにある!」
あなたは、消えるんですよ……
「本国に戻った瞬間。あなたはゾディアック5thでも、αでもなくなる。『音緒』の名さえも奪われて」
それが『贄堕 ち』だ。
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