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Ⅷ 花の舞う空【完】
子の国の統治体制は崩壊した。
α一元支配から、再び世界は流動する。
憎しみの向かう場所がなければ、平和は保てないのか?
それはまだ分からない。
しかし、生きる命が求める限り願いは未来に続くんだ。
皆の見つめる未来が同じ場所である事を、
途切れる事なく永劫に続く平和がある事を願わん。
「軽くなりましたね」
漆黒の仮面が囁いた。
俺を両腕に抱いて。
(空が見たい……って)
我が儘言ったから。
空と波が交わる場所を見たかったんだ。
窓からの景色じゃなくて。
空気圧と空気中の成分を仮面で調整している。
零は外へ出ても人型を保てる。
仮面を外さなければ。
兄上の仮面を似せて作ったのは、零には秘密だ。
「重くなったと言ってほしいな」
お腹に手を当てた。
ここに新しい命が宿っている。
俺はΩとして受精したから……
あなたの精子を受け取りました。
あなたは、そばに……
心にいてくれる。
願いを紡いでいくよ、あなたの見る事のできなかった未来を、この子と共に。
空から見ていてください。
深海の穏やかな瞳で……
いつまで生きられるだろう。
俺は……
この世界で、いつまで?
産むよ。
この子を、大切なあなたから授かった命だから。
産むまで生きる。
産んだその後は、この子を育てないと……
俺は母親になるんだ。
図太く生きてやる。
空っぽだった俺に、生きる意味を授けてくれてありがとう。
生きたい。
この世界で、俺は生きたいんだ。
《fin》
砂丘を見下ろす丘が、彼岸花の深紅で染まっている。
朝焼けの空よりも紅い-天上の花-
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