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その14
エレベーターの中で気持ちを固めながら、宴会場に戻る。大石さんも部屋に引き上げたのか、晴輝は椅子に座って、居残っているスタッフ達に囲まれていた。
「さあ、晴輝も部屋行こう」
緊張がぶり返す。内側からたたかれてるような、激しい胸の高鳴り。思わず晴輝の腕を、きつく握ってしまう。
みんなに挨拶をし、打ち上げ会場を出て、人気のない明るい廊下を晴輝を支えながら歩く。
晴輝は俺によりかかって、気持ちよさそうににこにこしてる。ほてった頬のぬくもりが、スーツ越しにじんわりと染みてくる。
さっき戻ったばかりのルートを通り、部屋へ。翔一郎さんを寝かせた部屋と、まったく同じ作りだった。とりあえず、晴輝をベッドに座らせる。
「なにか飲む?」
「ミネラルウォーターある?」
そのままベッドに倒れこむかと思ったら、晴輝は足をぶらぶらさせて、うつむき加減でいる。
「ほら、ミネラルウォーターだよ」
冷蔵庫から出したミネラルウォーターを晴輝に渡す。俺も同じペットボトルを手に、晴輝の隣に座った。晴輝はペットボトルを両手で握ったまま、黙っている。
さっきまでと全然様子の違う晴輝。鼓動が部屋中に響きそうで、身体全部が心臓になったみたいだった。喉が渇く。
それを静めるためにも、俺は一気にペットボトルを半分ぐらい空けた。苦しい。一気飲みのせいなのか、緊張で苦しいのか、よく分からない。
「……静也……」
かすれたつぶやき。晴輝の両手が、俺の身体へと伸びてくる。
俺はまばたきもせずに、晴輝をじっと見つめた。ゆっくり伸びてくる腕。切実な表情。晴輝の手は俺の胸へたどり着くと、そうっとゆっくり這いのぼって、俺の顔を包みこんだ。
見えなくてよかった、と思った。きっと俺は今、泣きそうな顔をしている。
そうっとそうっと、今にも崩れそうなものを扱うように、晴輝は丁寧に俺にふれる。深くうつむいていて、その表情は見えない。指先がぴんと緊張してる。俺の感触に集中してる。
互いの息遣いはもちろん、晴輝の指が肌を滑る音まで聞こえそうだった。息をひそめ、目を閉じる。
眉、まぶた、鼻、頬、耳、そして唇。
晴輝の指が、俺の顔のパーツをゆっくりゆっくり、順番に探っていく。
「酔ったふりしてたの、分かった?」
突然の声に、俺は目を開けた。晴輝のいつもの、明るい笑みが目の前にある。
「だって恥ずかしいじゃん、あんな歌歌っちゃってさ」
「晴輝……」
思いきり、晴輝を抱きしめる。
「あの歌は、俺のことだと思っていいの?」
なんとか言葉を絞り出す。晴輝の胸の鼓動も激しい。もっと鼓動を重ねあわせるように、抱き寄せた。
「うん……、恋人になってくれる?」
俺を抱きしめ返しながら、おそるおそる、弱々しい声で晴輝が言う。
「当たり前じゃん。好きだ。好きだよ、晴輝」
首に押しつけられる頬が、熱い。赤らんでる晴輝の顔が近づいてきて、唇が俺のあごの下に当たった。
キスに失敗したと分かって、俺の顔を探して手が伸びてくる。自分からキスしてしまいたかったけど、俺は我慢強く待った。
あご、頬と、何度も肌に軽くふれる晴輝の唇の感触に、興奮が高まっていく。
ようやく俺のと重なりあう、晴輝の乾いた唇。ふれあった瞬間に、心臓がわしづかみにされる。深い深い、幸福感。キスだけでこんな気持ちになるなんて。
ベッドに倒れこんで、何度も深い口づけを交わす。積極的に、でもぎこちなく、口の中をかき回す晴輝の舌。俺の髪や顔をなで回す、両手。
俺も、晴輝の優しいさわり心地の髪、小さくてふわっとした唇、細い腰、そういうものを全身で感じた。キスだけでも気持ちよくて、しつこいほどむさぼりあう。
晴輝の手がワイシャツ越しに俺の身体のラインを、せわしなく何度も往復する。俺はぞくぞくと背中を駆けあがる欲情にたまらなくなって、晴輝のシャツの中に下から手を入れた。
「あっ、静也っ……」
晴輝は肌を撫で上げる俺の手に、しなやかに反応した。うっすらと開かれた唇が、キスのせいか赤く染まって、色っぽい。
シャツを脱がせて肌に顔を埋めようとした俺の胸を、晴輝の両手がめちゃくちゃに探る。ワイシャツのボタンを探り当て、一生懸命はずそうとする。
「静也も早く服脱いで。静也の身体がどんななのか知りたいんだ」
うるんだ声。興奮と欲情が、苦しいぐらい膨張する。俺はスーツを脱ぎ散らし、晴輝が服を脱ぐのを手伝った。
はにかむ晴輝のジーンズを脱がす。白くほっそりした身体の中心で、晴輝のそれも興奮しきって、濡れていた。
いやらしくて、きれいで、うれしくて、思わず息を飲む。俺とは対照的な白い肌がまぶしい。
「ちょっと、俺の好きなようにさせて……」
したたる色っぽい声。同時に、小柄だけどすらりと伸びた手足が、俺の身体に絡みつく。
晴輝は両手で俺の身体を探り始める。真剣な顔で丁寧に、まるで俺の身体のすべてを手に覚えこませようとしてるみたいに。
「すごい筋肉だな、やっぱいい身体してんね」
晴輝の吐息が俺の胸をくすぐる。
「……晴輝も、すげえそそる身体してるよ」
くすくす笑いあい、またキス。
骨や筋肉のラインをなぞる指のあとを、熱い舌が這う。時々止まっては、俺の身体のあちこちにそっと口づける。
俺はいい加減限界で、晴輝をまた押し倒そうとした。まだだよ、と耳元でささやく濡れた声。
「まだって、俺もう我慢できないっ……」
晴輝の手がそっと俺の中心を探って、限界まで張り詰めてる俺自身を包む。
「もう無理? 無理か」
恥ずかしそうに笑いながらそっとふれる手は、愛撫に慣れていない。そのぎこちない感じが、いっそう俺の興奮をあおる。
「な、もういいだろ? 早く晴輝のこと気持ちよくしてやりたいんだ」
ぐっと腰を抱いて晴輝を引き寄せ、耳元でささやく。晴輝の顔がぼっと赤らんだ。
「無理しないで、俺に任せて」
言うと晴輝は、赤い顔のままむくれる。
「……意地悪だね、静也は。うれしそうな声出してさ」
「俺、意外と経験豊富だから」
わざと得意げに言う。晴輝の顔がますます赤らむ。本当に素直すぎだ。かわいい。
うつむく晴輝に、下から顔を近づけて音をたてて軽くキス。耳や首筋に舌を這わせながら、晴輝のそれを右手で包み、濡れている先端を撫でる。
「気持ちいい? すごい濡れてきたじゃん」
先端から液体がじわじわ出てきて、指を動かすとくちゅりくちりといやらしい音がした。
「んっ、あ……静也っ……」
吐息を荒くし、俺を呼ぶ声は弱々しくて、期待と興奮と快感に溺れかけてる。
「な、任せてくれるよな?」
かろうじてうなずいたと分かるくらい小さく、晴輝が首を縦に動かす。俺はそれを合図に、晴輝に俺が与えられる限りの快楽を与えたくて、押し倒した。
耳を舌でなぶりながら、右手はそのままに左手で胸にふれる。
「あ、ああっ……!」
俺の背中に回っている腕に、ぐっと力がこもる。そり返る喉にむしゃぶりつき、そのまま唇を這い下ろしていく。晴輝の唇からは絶えずあえぎ混じりの吐息が漏れ、腕の中の細い身体があわいピンクに染まっていく。
「やっ、あ、んんっ……ダメ、恥ずかしいっ……」
ついに晴輝の中心にたどり着いた。俺がそれに舌を這わせると、晴輝は両手で俺の頭を押さえるようにして、何度も首を横に振る。
「すげえ気持ちいいから、すげえ恥ずかしいんだろ?」
晴輝は目を閉じて、なにも言わない。こういう経験がほとんどないらしい晴輝の恥じらいが、かわいくて愛しくて、たまらなくなる。
「脚、開いて」
言えば素直に、ちょっとではあるけど脚が左右に開いた。もう一度晴輝のそれを口に含み、優しく丁寧に愛撫する。
「だめっ、も、イクっ……!」
「いいよ、イって」
晴輝の聴覚を刺激するように、わざと大きくいやらしい音を立てた。先端を舌でなぶる。強く吸い上げる。
「あっ……!」
びくびくと身体を震わせながら、達した晴輝。俺はその白をいったん口で受け、すぐに晴輝の奥を濡らすために、とろりとそこへ流しこむように吐き出す。
「気持ちよかった?」
「……うん……」
放心した声。でも晴輝の意識が、晴輝の吐き出した物を奥へと塗り広げている、俺の指に集中しているのが分かる。
表情が見たくて俺は身体を起こし、晴輝の後ろに指を入れて少しずつほぐそうとした。
「やだ、静也っ、うあっ……」
しどけなく息をはずませ、身体をよじる晴輝。痛いとは言わないけど、涙が浮かんだかなり苦しそうな表情だ。全然受け入れないきつさに、俺はいったん指を抜いた。
「……静也?」
「痛いだろ、無理はさせらんないよ」
隣に横になろうとする俺に、晴輝は当てずっぽうに手を伸ばす。
「俺なら大丈夫だよ」
全然大丈夫じゃない。たぶん初めての身体に、無理はさせたくない。俺は答えの代わりに、晴輝の髪を撫でて抱き寄せた。
「やめないで。俺なら大丈夫だから……。ちゃんと静也と最後までしたいんだ」
「焦ることないよ、なんかこれっきりみたいじゃんか」
晴輝の様子に少し不安を感じて、思わず言う。猫のように、晴輝は俺の肩に頭を押しつけてきた。
「……ごめん。でもやっぱり、静也と早く繋がりたい」
これも、晴輝が抱える傷がさせることなんだろうか。俺はゆっくり晴輝の髪を撫でながら、少し考えた。
「分かったよ」
ちゅっと音を立ててキス。俺は晴輝の脚を大きく開かせて、晴輝のそれを扱きながら、後ろに顔を埋めてそこをさらに唾液で濡らした。
前への刺激で気をそらせるようにしても、ちょっとそこに指を入れた途端、びくりと晴輝の身体が跳ねる。漏らす声も、あえぎというよりは苦痛の声だ。それでも晴輝の手は、やめるなというように俺の頭を押さえつけている。
少しずつそこをほぐすうち、晴輝の反応が変わり始めた。時々ぴくっ、ぴくっ、と腰が小さく跳ねるのは、感じてくれてるらしい。
「うあっ、は……あっ、あ……」
苦い快楽に眉をしかめていても、唇には恍惚が乗っていたりする。快感だけを感じていて欲しい。でも、晴輝の希望もかなえたい。
「晴輝、もう大丈夫?」
髪を撫でて訊くと、晴輝は少しの間の後、本当に恥ずかしそうにうなずいた。
「そんなに固くならないで」
なだめるように優しくキスしてから、ゆっくりゆっくり晴輝の中に入る。抱きしめてあちこちにキスしながら、少しずつ晴輝と肌を密着させていく。
つらそうな、くぐもった声が晴輝の唇からこぼれる。俺の首に回った腕に力がこもる。
「大丈夫? 痛い?」
「平気……もっと、大丈夫……」
うるんだ瞳と吐息で、晴輝は俺の背中をしっかりと抱く。耳にかかるあえぎ混じりの吐息に、背中が興奮と快感にざわめく。最高に気持ちいい。
「う……あ、ああっ、んうっ……」
きつく閉じられた晴輝の瞳から、涙が一粒こぼれる。そっと舌ですくい取って、求められるままに奪いあうようなキス。
「静也、静也っ……、いいから、もっと……」
荒い息遣いで苦しそうにしてるのに、晴輝はぎこちなく腰を揺らし、俺とさらに深く繋がろうとする。
愛しい。たまらなく愛しい。
「は、あっ……、ねえ、今俺達ちゃんと繋がってるよね?」
「うん、繋がってるよ」
俺を半分ぐらいまで受け入れ、隙間なく密着した晴輝と俺。俺達はしばらく黙って抱きあい、互いを感じあった。
動かずにいるから、晴輝の表情からも苦しさが消え、とろけている。それが、とても幸せだ。
俺にもその時々で抱きあう相手はいたけど、こうしてお互いのぬくもりをじかに感じあうだけで、こんなにも満たされるなんて、知らなかった。
だけど。
「ごめん、俺もう我慢できない……」
「うん……」
俺の吐情を助けようとしてくれる晴輝を、しっかりと抱きしめ直す。なるべく晴輝の負担にならないようにしながら、俺はギリギリのタイミングで晴輝の中から出た。晴輝の太ももや腹に、俺の白が飛び散る。
「なんかすげえ、うれしい……」
晴輝のかすかな声。俺の胸に顔を埋めて、表情は見えないけど、泣いてるようにも見えた。もっと抱き寄せて、汗ばんだ肌を何度も撫でる。
深くふれあう肌のぬくもりや柔らかな髪の感触が、まろやかなまどろみへと俺を誘う。
「眠くなってきたね」
晴輝の甘い声に、閉じかかった目を薄く開ける。満たされた、ふんわりした微笑みが、俺の幸せをより深くする。
どうかいつまでも、こんな時間が続きますように。
いや、願うんじゃない、俺がこの手で、晴輝とこの時を守ろう。
君のぬくもりは僕の勇気。それは俺も同じだから。
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