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エピローグ
「なぁ……トカプチ」
「なんだ?」
「オレはずっとこの地の名が嫌いだった。『水は枯れろっ 魚は死ねっ』という妖精の呪いの言葉のせいか、食べ物が枯れるばかりの寂しい土地だったからな。だが……お前と出逢って好きになった。『トカプチ』がオレの命の糧でもある『乳』の意味を持っていたなんてな」
「そうか……お前はずっと独りだったんだな」
「あぁ……もう、ずっとだ」
「両親は?」
「父はとっくの昔に死んだ。母は俺を育てるのに必死で、結局……餓死してしまった」
「……そうだったのか」
狼の瞳って、不思議だ。
瞳に感情がよく表れる。
だから俺たちは、よく見つめ合う。
感情豊かで優しいロウ。
お前の寂しさ……俺が補えるだろうか。
あの日から番になった俺たちは、いつまでもこのトカプチの地で仲睦まじく暮らすことを誓った。
お互いに求め合って、補充しあって生きて行こうと。
俺には、もう後悔はない。
ただ一つあるとしたら……産み育ててくれた優しい両親に別れを告げられなかったことだ。だが既に両親を亡くしたロウに、それを望むのは酷なことだと我慢していた。
「そうだ。春になったらトカプチの両親に挨拶に行こう。攫うように連れて来てしまったことを詫び、お前と番になったことを、きちんと報告したい」
「えっ……」
思ってもいない優しい言葉の贈り物だった。
「その時は、この子も連れて行こうな」
ロウの手が、俺の腹に優しく触れた。
そこは新しい命の灯を感じられる神聖な場所だった。
「トカプチが産む子供……早く見たいな」
「あぁここで育っているのは、ロウと俺の子だ」
ここは荒涼とした最北の地。
吹く風も凍るような極寒の地。
独りで暮らしていたロウの毛は凍っていたが、今は違う。
それに俺も……今はあまり寒さを感じない。
寒ければ……モフモフのロウの毛に、いつでも温めてもらえるから。
だから俺もロウを抱きしめてやる。
するとロウも心地良さそうに目を閉じる。
それから二人で顔や耳をぺろぺろと舐め合い、優しく甘噛みしあう。
互いに歩み寄りながら……心からの愛情を伝えあう。
これが……番となり運命の愛を育む、俺達なりの生き方だ。
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