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見果てぬ夢
公営娼館「グリフの館」から逃げ出した、
男娼見習いのユーリは1番街の裏通りを
ウォッチマンから逃げるように駆けていた。
5月の初めの季節ではあるが、
山岳地帯の朝晩はぐんと気温が下がり冷え込む。
夜の凍てついた空気が、
必死に逃げるユーリの肌を刺す。
『はぁ……はぁ……』
ポツン、ポツン、と、等間隔に建っている街灯が
静寂に包まれた通りを、闇の侵食から守っている。
ユーリの駆ける足音、
息遣いが昼間の十倍は大袈裟に響く。
そのユーリの後を追うように、
複数の人の声と足音が聞こえてくる。
ユーリは物陰に隠れると、
息を潜め追っ手の様子を伺った。
『どこ行きやがった!?』
『一刻も早く見つけ出せ!
見つからなければ俺たちの命が……』
タウンいちのごうつくばりで有名なグリフ・
ボスワースが法外な高値で買った男娼が隙きを突いて
逃げ出したのだ。
万一見つけ出すことが出来なかったら、
ウォッチマンらの命はもちろん、
家族達の身の安全さえ危うい状況になる。
その事を考えると、
彼らの背中は冷や汗がびっしょりで、
心臓は異常なほど早く動いていた。
『草の根分けてでも見つけ出せ! いいな!』
『おぅさ!』
ウォッチマンらの姿がその場から居なくなった事を
確認してから、ユーリは再び走り出した―― が!
花街へ入る唯一の入り口であるメインゲート
(吉原遊廓で言うところの”大門”)を目前にして
つい気が緩み、表通りへと曲がったところで
追っ手と鉢合わせてしまった。
『見つけたぞぉーっ!!』
「―― って、ゴルァッ!!
逃げるんじゃねぇっ!」
後ろの叫び声を聞きながら、
ユーリは必死で駆け出した。
そんな事言って、
止まったらこっちは一巻の終わりだ!
ほら、大声で叫びながら追って来るし。
「待て、逃げんなっ。絞めるぞっ、コラ~ッ!!」
うわぁぁ ―― 何で、ヤクザなのに
めっちゃ足速いんだよぉ~??
死に物狂いで走ってると、ワンブロック先の
路地からも別働隊らしき追っ手達が飛び出してきた
敵ながらあっ晴れのチームワーク……って、
感心してる場合じゃないっつーの!
まさにコレは 前門の虎、後門の狼。
前後を挟み込まれ、
左右に逃げ込めるような路地はなし。
この状況で尚、逃げるとするなら
空の上か地下しかない……
退路を完全に塞がれたユーリは息を荒く吐きながら
ホールドアップで降参の意思表示をした。
注! ウォッチマン = 不寝番
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