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灰色生活にひとつの肉まんを

 僕は、母が仕事でいない夜中にシャワーを浴びて、服を着替えるために1回帰る。  母のいないときじゃないと、僕を見た母は癇癪(かんしゃく)を起こし、僕に罵声を送る。  その日も、夜中1時に2階建ての木造アパートの2階角部屋の扉をゆっくり開けた。  そこにはいつもいない、母と40代後半ぐらいの無精ひげを生やした男がいた。 「なんで、あんた帰ってきたの!?早く出て行って!!」  狭いワンルームの部屋。  扉を開けてすぐみえる部屋の中。  母は僕を睨んでいる。 「まぁまぁ落ち着いて」  罵声を浴び続けている母を宥める男は僕を見てニヤニヤしている。  もう嫌だ。  わかってる、僕はあなたにとってはいらない子だってことも。  そして、この男のニヤニヤ笑いがあの時のことを思い出して、気持ち悪い。  僕は扉を閉めて、走ってその場を離れた。  今日はどこで寝よう…。  今までは、母がいない夜中に帰って、少し仮眠もとって、母が帰ってくる前に家を出るという暮らしだった。  本格的な野宿は初めてだ――。  冬も本格的に始まりつつある。  僕は行くあてもなく、とぼとぼと田舎道を歩く。  街灯もなく、車通りもない真っ暗な道路。  空の星が微かに輝いているだけ。  僕は夜空を見詰めつつ、歩く。  自分の名前もわからない、これから先の未来も真っ暗で何も見えない。  ははは。何かこの真っ暗な海の向こうみたい――。  どれだけ目を懲らしめて遠くを見つめても、見えない向こう側が、先の見えない僕の未来とそっくりだ。 「おーーい!」  砂浜に膝を抱え小さくなっている僕に向かって海沿いの歩道から誰かが声をかける。  波の音しかない此処で、妙に響いた男の声。  僕は聞こえないふりをして、無視した。  どうせ、碌でもないようなやつだ。  田舎町のちょっといきがった不良とか。  僕は顔を上に向け、夜空を見る。  複数の小さな輝きの中に、ひとつだけ大きな輝きを放つ星が目立っている。 「……綺麗だなぁ。大きな星…」  ぼーっと大きな輝きを放つ星を見詰める。

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