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第2話

御館の壁際。 紅と藍の房の近くに、うまい具合に隠れられる場所があるの。 紅と藍が収まって、もう少ぅし広さがあってね、ぽかぽかで、ゆっくりなの。 今日も紅と藍はそこへ行く。 お気に入りの場所だからね。 明日、お師さまの試験があるの。 お勉強は大変で楽しいものではないから、せめてお気に入りの場所でしようって、思ったのだもの。 何もいわなくても、紅の思うことは藍に通じている。 藍の思うことも、紅にはわかるのよ。 紅と藍は、そっくり同じ姿かたち。 全きヒト族で、栗色のくせ毛と緑の瞳をしているの。 違うのは与えられた帯と小物の色だけ。 紅は紅色。 藍は藍色。 紅と藍はずっと一緒。 紅と藍になる前から、ずうっと一緒なの。 試験の出来が良くないと、紅と藍は一緒にいられなくなってしまう。 罰は一緒にいられないこと。 悲しくて寂しくて、いや。 先日の新年に、紅と藍は十四歳になったから、一緒にいられるのはあと少し。 精が通ったら大人になって、御館から出て、名前をもらうの。 でも、お勉強ができていないと、大人になったときに、御館から出られなくなってしまう。 だから、頑張らないと。 「ええと、まずは」 真ん中に紙を置いて、藍がくるりと印を描く。 「モノを考え、言葉を話す種族には、獣人族とヒト族と混合種族がいます」 「基本の姿は二足歩行です」 「獣人族は、毛皮を持ち丈夫で、身体的能力に長け、各種ごとに動物の特長をもちます」 「ヒト族は、一部に毛をもつもののつるりとした肌をしていて、頭脳明晰で、手指が器用です」 「混合種族は、その名のとおり、身体的に混合された特長をもちます。各個体ごとに、特長は違います」 「全き獣人族と、全きヒト族は希少種なので、保護施設に収容されています」 「この国では保護施設を御館と呼びます」 書き書き。 ふたりで習った事柄を紙に書き込んでいく。 いっぱいになったところで、次の紙を取り出して、紅が印を描く。 「あるふぁ、べーた、おめが」 「難しいねえ」 「この字は難しいねえ」 記号の横に、藍が読みを書く。 「ええと、生殖?」 「一般的な生殖」 「体の中に生殖器を持つ女性体と、体の外に生殖器をもつ男性体がいます」 「男性体の生殖器が、体外にぶら下がった形であるのは熱に弱いからです」 「ええと、あとは……」 「あとは……」 「女性体の中に挿入しやすい形状のためです」 「そうだ!」 ベータと書かれた下に、図を書いて説明を入れていく。 「混合種族のほとんどは、ベータです」 「男性体と女性体が、交尾をして、繁殖します」 「繁殖?」 「生殖?」 うーん、とふたりで顔を見合わせたけれど、どちらが正解なのか思い出せなくて、どちらの言葉も書きこんだ。 「アルファは、導く性。基本能力が高く、群れのリーダーになります。男性体・女性体にかかわらず、産ませる性です」 「オメガは、繁栄をもたらす性。唯一のアルファに従います。男性体・女性体にかかわらず、産み出す性です。九十から百日に一度、五日から七日の繁殖期があります」 「どの性の子も孕みますが、アルファとの繁殖率が一番高いです」 「繁殖期を共にする唯一のアルファのことを『番』と呼びます」 新しい紙を置いて、書く。 「全きヒト族と全き獣人族は、御館に保護されます」 「ベータから生まれた全きモノも、御館に保護されます」 「第二次性徴期に、アルファかオメガに分化します」 「分化したら、大人の保護施設に移ります。そこで番を待ちます」 「番に出会って、名前をもらい、交尾をします」 ふ、と変な感じがして、紅は顔をあげた。 気づかないままに、藍は字を書き続けている。 「アルファが性交中に、オメガのうなじを噛むと、番関係が成立します」 藍が書き終わったところで、紙の上に影が差す。 「おふたりとも、大変よく覚えておいでです。けれど、コネホのお願いは、覚えてくださらないのですね」 「コネホ」 「コネホ」

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