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第3話

覗き込んでいたのは、ウサギの耳を持つ混合種族。 御館の中で、紅と藍のお世話をしてくれる、コネホという名の侍女。 「お目が悪くなってしまいますから、日向でのお勉強はおやめくださいと、お願いいたしましたのに」 「ごめんなさい。覚えているよ」 「でもね、気持ち良かったの」 「これから気をつけてくださいましね。さあ、房に戻っておやつにいたしましょう?」 「はい」 「はい」 紅と藍のお気に入りの場所は、コネホが入るといっぱいいっぱいになってしまう。 少し待ってもらうことにして、ふたりで散らかした紙をまとめて手に持った。 低い枝をくぐって、遊歩道にでると、コネホと一緒に護衛のガートがいた。 「ガート!」 「おふた方がかくれんぼしてしまわれたので、ガートに探してもらったのです」 藍がガートに駆け寄ると、コネホがそう説明してくれた。 ガートは、一見ネコ種の全き獣人に見えるけれど、混合種族。 手がヒト族のようなのだって。 肉球も出し入れ自由の爪も、ないのだという。 藍はガートがお気に入り。 紅と藍を間違えないから。 けれど、紅はガートが苦手。 怖いの。 あの目が、怖い。 絶対に紅と藍を間違えないのが、怖い。 「おやつが終わったら、宴の準備をいたしましょうね」 コネホは房に戻る道すがら、そう言った。 「宴?」 「誰か分化したの?」 「はい。橙さまが」 コネホが名をあげたのは、全き虎種の獣人族。 紅と藍より、一つ年下だったはず。 いつも堂々としていて偉そうだったから、きっとアルファなのだろうなと思った。 「橙なら、アルファでしょう」 片手をガートとつないで、藍が言う。 皆でつながるわけにはいかないから、紅はコネホと手をつなぐ。 「はい」 低い声で答えるのは、ガート。 声の響きが怖くて俯いたら、コネホが紅の顔をのぞき込んで、手をぎゅっとしてくれた。 「大丈夫でございますよ。紅さまも藍さまも、じきに分化されます」 「ううん、いいの」 「いいんだよ、コネホ。藍と紅は、一緒にいたいから、いいの」 ねえ、とふたりで顔を見て笑ったら、仕方ないなあというようにコネホが首を振った。 「お二方とも、お歳のわりに幼くていらっしゃいますけれど、いつまでもお子さまではいられないものですよ」 「だって、紅といるのだもの」 「藍がいればよいのだもの」 「全き方々は、繁殖をするのがお役目です」 「だぁって……紅がいい」 「番は藍ではないのだもの」 そう言ったけれど、コネホは苦笑いするだけで、そうですねとは言ってくれない。 大人になると、番と一緒になるのだと、そう言うばかりなの。 大人になるのは素敵なこと。 番を得るのは素晴らしいこと。 お師さまもコネホも、他の侍従たちも侍女たちも、そう言うの。 紅と藍と、他の全きモノたちは、みんなそう言いきかせられている。 だから、それが正しいのだと思う。

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