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第4話

「橙、おめでとう」 「おめでとう、これどうぞ」 夕食は、宴の席でいただくのだと言われて、きちんとした服を着た。 皆お揃いの、御館での服。 帯や小物は名前の色。 今夜の服は、コネホが縁取りを縫い付けてくれた。 紅のには紅色の。 藍には藍色の。 橙は橙色の腰帯に、飾りの剣をさしている。 大人の印。 橙は一見怖い顔に見えるけれど、本当は、可愛くて綺麗なものが好き。 だから、紅と藍がお花を渡すと、目元が緩んだ。 「ありがとう。紅と藍に会えなくなるのは、寂しい」 「遊びに来て、橙」 「橙、また会いにきて」 「そういうわけにはいかない。大人は番をもって、番を大事にしなくちゃいけないもの」 よしよしと、紅と藍の髪を、順番に撫でてくれる橙。 爪をしっかり中に入れてくれてて、優しいなあって思った。 橙の番になれる人は、きっと幸せ。 「本当に、紅と藍はいつまでも……まるでこどもね。橙の方が、年下なのに」 「山吹の方が先に分化するんじゃない?」 桃と山吹が、呆れたように鼻で笑う。 「紅といられるなら、それもいいよ」 「いいの、藍と一緒にいる方がいい」 桃は豊かな髪を、きっちりと桃色の髪飾りで結い上げている。 綺麗な全きキツネ種。 山吹はリス種。 「分化に歳は関係ないものね。体の成熟度だから」 やんわりとそう言って、桃を窘めてくれるのは菫。 そうそう、とうなずいているのは樗。 みんながそれぞれに、橙への贈り物を手にしている。 贈り物で両腕がいっぱいになって、橙は嬉しそう。 「いつかまた会えたら、名前を教えるね」 番にもらう大事な名前を、再び会えたらその時に教えると、橙は約束してくれた。 和やかに、宴は続く。 いつもの食事はきちんと椅子に座って、出されたものから順に、お行儀よく食べなきゃいけない。 宴の時は、立ったままでよいの。 自分で食べたいものを皿にとって、自由に食べていいの。 「はい、藍」 「紅、はい」 紅と藍はいつものように、ちょっとずつたくさんの料理をとってきて、ふたりで分けっこする。 本当はよくないのだって。 けれどいつか番とならしてもいい食べ方なのだと、お師さまはおっしゃった。 コネホは紅と藍はあまり食べないから、いつもより食べてくれるなら、それでもよいという。 藍の好きなものは、干した果物が入った野菜の和え物。 しっかり火の通った魚料理も好きね。 紅は果物を刻んで、汁につけたものが好き。 後は卵料理。 他の人に邪魔されないところに、ふたりで行く。 「おいしい?」 「おいしいね」 「紅はこれが好き」 「そう思ってとってきたの。藍はこっちがいい」 「そういうと思った」 くすくすくす。 小さく笑って、おたがいの口に料理を運ぶ。 皿が空になって、次の相談をしているときに、なにかが気になった。 なあに? 会場を見回したけれど、変わった様子は見えない。 藍を見たら、同じように不安そうな顔で、会場を見ていた。 「紅」 「藍」 何かおかしいね。 「コネホを探そう」 「教えよう」 皿を置いて、手を繋ぐ。 怖くても、藍がいれば大丈夫。 会場を一周したけれど、コネホはいなかった。 何がおかしいのかもわからないけれど、何か変な感じがする。 どうしよう。 紅は、外が気にかかる。 「紅、ガートがいない」 小さい声で、藍が言った。 「え?」 「全きモノたちも、侍従も侍女も、皆いるの。でも、ガートとコネホがいない」 「探しに行こう」 「うん。そうしよう」

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