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第5話

怖い。 怖い怖い。 誰か。 誰か誰か。 真っ暗の中を走る。 怖い。 何かが追ってくるのがわかる。 振り返って確認する余裕はなくて、必死に足を動かす。 追いかけっこは別々に逃げたほうが、捕まりにくい。 何度か御館の中で遊んだ時に、それは知っていた。 紅も藍も。 だから、何かが追ってきていると気がついた時に、藍は紅の手を離した。 紅は嫌だったけれど、藍が望んだから、離した。 「紅、あそこでね」 「あそこに来てね、藍」 御館の外、壁の向こうが明るい。 空は真っ暗なのに。 夜なのに、壁の向こうだけが明るいの。 いつだったかも、こんな夜を走った。 まだ紅が紅じゃない頃。 藍も藍じゃない頃。 ふたりで走って、逃げた。 「藍……」 ここはどこ? 樹の下をくぐり、藪中を突っ切り、お気に入りの場所を目指す。 でも、やみくもに走ってしまったせいで、今いる場所がわからない。 御館の中で、迷子になるはずがないの。 今いる場所がわかれば、すぐにも、あそこに行けるの。 あそこに行けば藍がいるの。 いるはずなの。 どお……ん、と、大きな音がした。 紅の左方向で。 びっくりして足が止まる。 振り返ったら、壁が崩れたのだろう。 向こう側にある建物が燃えているのが見える。 なあに? ねえ、何が起こっているの? さっきまで、御館の中は和やかだった。 橙が分化して、おめでとうって、皆でお祝いしていたよ。 どうして壁が壊れているの? 何故、向こう側が燃えているの? 何が起こっているの? 「どこだ?」 「こっちに向かっていたはずだ」 「見えるか?」 ――! 声がする。 きっと、紅を追っていた人。 どうしよう。 藍。 ふと、外にあの感じがあるのに気がついた。 さっき気になった、何か。 あの壁の向こう。 きょろきょろとあたりを見るけれど、あのお気に入りの場所からは、少し離れている気がする。 追ってきた人たちをやり過ごして、あの場所に行くのは難しそう。 それなら。 紅は、壁の外に向かって、走った。

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