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第6話

くふくふと、笑い声。 ふかふかに吸い込まれて、いい気持ち。 「紅」 耳元で優しい声がする。 この声は安全。 腕の中にあるふかふかを、ぎゅうと抱き込んだ。 「紅、離してくれ」 いーや。 いやよ。 紅はまだ眠るの。 だって、藍が起こしに来てくれない。 「紅」 ぺろんと、顔を舐められて薄目をあけた。 「藍じゃ、ない……」 「寝ぼけているのか? 俺だ」 「ロボ……」 狼の脚の間に収まって、尻尾を抱き込んで眠っていた。 拾われてから、ずっとそうしているように。 ロボはオオカミ種の全き獣人。 その中でも、変態できる力のあるアルファ。 全きモノでアルファなのに、保護施設にいたことはないのだそうだ。 「藍は……?」 ほろりと、涙が落ちた。 あの日。 橙の祝いの宴があった日。 革命が起きたのだという。 国は根底から覆った。 御館と、王宮と、神殿は壊された。 保護施設は嘘だったって、ロボの配下の人が言ってた。 嘘じゃないよって泣いたら、ロボが慰めてくれた。 全きモノを保護するのは間違っていないけれど、おかしかったのだという。 難しいことを考えるのは、無理だった。 だって、藍がいない。 紅は藍がいないと悲しくて何もできない。 御館にいた侍従も侍女も全きモノたちも、皆、取り調べられた。 それから、ばらばらに、しかるべきところに移動したと教えられた。 その中にコネホはいたけど、藍とガートがいなかった。 紅は皆を調べた紙を見せてもらった。 間違いはないか、誰か嘘をついていないかと、何度も聞かれた。 知っていることは、全部話した。 「泣くな、紅。お前の片割れは、部下に探させている」 ロボは紅を拾ってくれた。 怪我が癒えるまで看病してくれた。 そのあとも、こうして紅を大切にしてくれる。 でも。 でもね。 本当はちょっと怖い。 ロボは安全。 でも、ヒト型になったロボは、時々怖い。 『お前は、俺のオメガか?』 そう聞かれたからかもしれない。 ロボは好き。 でも違うって、紅は思う。 ロボは紅のじゃない。 感じたままに答えたら、ロボはそれから、紅の前では獣型でいるようになった。 「出かけてくる。お前はどうする?」 「待ってる……」 「そうか。では、この部屋から出るな」 「うん」 藍。 ねえ藍。 怖いよ。 今どこにいるの?

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