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第7話

その場がざわりとしたのは、紅がロボの尻尾をつかんでいるせい。 多分。 今朝、視察に行くというロボは、紅を連れて行くと言ったのだ。 絶対に守るから、一緒に来いって言った。 今まで命令したことのなかったロボが、来いって。 いやと泣いたら、尻尾をつかんでいていいから、とにかく外に行くのについて来いって、怖い顔をした。 お世話になっているお屋敷を出て、市街地を歩く。 人がいっぱい。 こんなにたくさんの人を見るのは、初めて。 ほとんどが混合種族の人。 大きい人も小さい人もいる。 全き獣人族が子を連れていた。 混合種族の子だったけれど、そっくりで、親子なんだってわかった。 「紅」 「なあに」 「つかんでいていいから、少し力を緩めてくれ」 「あ……ごめんなさい。痛かった?」 「少しだから、大丈夫だ」 大股でぐいぐいと歩いていくロボについて歩くのは、紅には大変。 怖いし置いていかれたら大変だから、ぎゅうっと握っていたら、振り返ったロボが情けない顔をして言った。 尻尾は、痛いのね。 にぎにぎと手の中の尻尾の感触を確かめる。 すれ違う人たちが、驚いた顔で、ロボと紅を見た。 何度も、何人も。 「ロボ……みんな見てる」 「そりゃあ見るだろう」 「どうして?」 「お前が俺の尾をつかんでいるからな」 ずんずん歩くから、ちょっと待ってって、尻尾を引っ張った。 あうって、ロボがつんのめるように足を止める。 「ねえ、どうして?」 「尾は、急所だからだ」 「きゅうしょ?」 「弱いところ、という意味だ。本来、触れさせるのだって番だけ。人前で誰かに触らせるなんて、ありえねえんだよ」 ええ?! そうなの? 紅はぱっと手を離した。 「ごめんなさい」 やっと自由になれたとでもいうように、ロボの尻尾はふっさりふっさりと揺れる。 「構わん。つかんでいいからついて来いと言ったのは、俺だ」 ほら、と、尻尾が差し出される。 「手でも、いいよ」 「あ?」 「上着のすそでも、いい」 「お前なあ……」 ため息をついたロボは、じゃあこっち、と左手を出した。 紅はそこに自分の手を乗せる。 視線を移動させたら、同じように手を繋いでいる人がいた。 全き獣人族と、混合種族の人。 ロボに引っ張られて、歩きはじめる。 紅は少し急ぎ足。 歩きながら周りを見たら、たくさんのいろんな人がいることに、改めて気がついた。 不思議。 せっせといっぱい歩いた。 何かをするわけじゃなくて、ただ、歩いた。 歩いているロボに近づいてきて、何かを渡したり、小声で話しかけたりする人がいた。 疲れたなと思う頃に、噴水のところで休憩しようと、ロボが言ってくれた。 露店で買ってもらった、甘い飲み物をごくごく飲む。 初めての味。 おいしい。 たくさんの人が、行きかっている。 「ねえ」 「なんだ」 「全きモノたちも、一緒にいるのね」 「お前は、知らないんだな」 「え?」 「普通は、一緒にいるんだ」 「そうなの?」 「ああ。普通は一緒に育って、一緒に暮らして、自分で番を見つける」 「へえ……」 ロボの言っていることは、簡単で難しい。 紅は道行く人を見た。 「帰りは、乗合馬車を使うか」 「乗ったことないよ。乗れるの?」 驚いてロボを見たら、泣きそうな顔で笑って、紅の頭をくしゃりと撫でてくれた。

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