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第2話

 碧馬は三年前、突然この地にやって来た。  西校舎の急な階段で足を滑らせて手すりを掴んだはずだった。それでも体重を支えきれず転がり落ちたのは覚えている。  痛いと思った瞬間に、意識が遠のいた。  次に気がついたら、森の中に倒れていた。  これは夢だろうか?   頭を強く打って意識を失くして夢を見ているのかも。ってことは、俺はもしかして死にかけてるのか?   ここはいわゆる三途の河? どこにも河らしいものはないけれど……。  恐る恐る体を起こして、周囲を見回した。  一体どこなんだろう? 木漏れ日がさしてとても温かい。  おかしい。今は一月のはずだ。  いや、夢だからおかしくないのか?  碧馬は学ランを脱いだ。シャツとベストでちょうどいい。  立ち上がろうとしたが、足首に痛みが走って立てなかった。  夢なのにこういうところだけは現実的なのか。  階段から落ちた設定はそのままらしくて、上靴を履いている。顔をしかめて靴下をずらして足首を確かめた。ねん挫したのかかなり腫れていた。  冷やしたくても、保健室はここにはない。  どうしたらいいんだろう。これが夢なら、自分の意識が戻るまでここで待っていればいいんだろうか。  それとも本当は打ち所が悪くてもう死んじゃったとか……?  いやいや、まさか!  自分の想像の怖さにぶるっと体を震わせたとき、後ろから音が聞こえた。  はっとそちらに顔を向ける。  がさがさと茂みをかき分ける音がして現われた人物を見て、碧馬は息を飲んで目を見開いた。目の前にいたのは、大きな熊だった。  何をどう考えていいかわからず、碧馬は声もなくその場にへたり込んだままだった。 「※※※※! ※※※※※!」  何か話しかけられたが、意味はわからない。強い語調からあまりよくない感じを受ける。熊に話しかけられるという異常な事態に、碧馬はただただ呆然と熊を見上げていた。 「※※※※※※※※! ※※※※※!」  ここにいてはいけなかったんだろうか。  いやそれより服を着た熊が話してるっておかしいだろう!  「※※※※※※、※※※※※※!」  黙っている碧馬に焦れたのか、熊の手が伸びてきて、碧馬は身を竦めて叫んだ。 「やめろ、俺に触るなっ」  殺されるっ。  とっさにそう思い、草の上を転がって逃れる。  熊は目を瞬いた。  抵抗されるとは思わなかったという表情に見える。  その時、横からまたガサガサと音がして、すこし小柄な熊が現れた。  やはり服を着ていて、リュックのようなものを肩にかけている。碧馬を見て、首を傾げた。思いがけないものを見てきょとんとしたという雰囲気だ。  ここの熊には人のような感情があるらしい。  一体、どうなっているんだ。  体を起こして、足首の痛みに耐えて立ち上がる。  走れそうにないが、逃げられるだろうか?  熊は何か会話を交わし、碧馬を見た。  うなずいて後から来たほうが木の向こうへ去っていく。  なんだかわからないが、とにかく怖いし良くないことが起こりそうな気がして、碧馬は後ずさった。

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