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第11話

「熊族は嗅覚が鋭いんだ。だから通常ならわからない微かなΩの香りに気がついて、あんなことになった」  あの二人は熊族のα男性で、碧馬が放つ微かなΩの香りで誘惑されたのだという。 「誘惑なんてしてない!」  憤慨する碧馬にリュカは真剣に言い聞かせた。 「わかっている。でもこれはΩの特性で、アオバの意思とは関係ないんだ。もし意に染まない相手に襲われてうなじを噛まれたら番にならざるを得ない。そうならないために、これをつけておいて欲しいんだ」  生生しい話に碧馬は顔色を青ざめさせて、じっとリュカを見上げた。 「無理強いされて番になるのは不幸だ。発情期だと妊娠する可能性が高いし」 「は? 妊娠……?」  碧馬は理解を超えた単語を聞いて、目を丸くした。  妊娠だって?  それって俺の心配?  するわけない。  それに無理強いされるってレイプって意味だよな?  男にレイプ?  でも昨日そうなりかけたことを思い出す。  ここではそれもありなのか?  いや、そんなことより番だの妊娠だの、一体何の話なんだ?   リュカが真剣な顔で話しているからここまで真面目に聞いていたけれど、碧馬の常識を越えすぎた話に実はこれはまったくの作り話なのではないかとさえ思う。  作り話ではなくても、そもそも碧馬がΩなんてリュカが言っているだけのことだし、とうてい信じられなかった。というより信じたくない。  Ωの特性もよく理解できないし、常識外れすぎて碧馬は何だか腹が立って来たのだ。眉を寄せて低い声を出した。 「あのさ、俺は男だよ?」 「ああ、知ってる」 「じゃあ妊娠なんかするわけないよね?」 「Ω男性は妊娠できる。少なくともこの世界では」  平然と返ってきたリュカの返事に呆然とする。  ぐらりと眩暈がしそうだ。  Ω男性は妊娠できる?  今、そう言った?  つまり俺は妊娠できるってこと?  いやいや、そんなわけないだろう!  碧馬が脳内葛藤している間に、リュカはやはり真剣な表情のまま、手にした首輪を碧馬に渡してきた。 「ともかく、そういう訳だから、これを着けていてくれるか?」  とても納得できる話ではなかったが、横で話を聞いていたガルダまでもが、絶対に必要だと言い張ったので、釈然としないながらもそのお守りだという首輪を着けてもらった。  首を守るためとはいえこれはどうよと思ったが、リュカとガルダはこれで一安心とほっとした顔になる。 「これにはケンタウルスの魔力が溶かし込んである。そう容易には噛みきれないから、心配するな」  何をどう心配したらいいのかも理解できないまま、碧馬は心もとなくうなずいた。   色々な常識があまりに違いすぎて、どう受け止めたらいいのかわからなかった。  正直に言えば、二人のいう事を鵜呑みにしたわけではない。碧馬は自分がΩだとか発情期があるとか妊娠できるとか、実はこれっぽっちも信じていなかった。  ただ昨日、実際に熊族の男に襲われたし、ここの習慣や考え方なら尊重したほうがいいだろうと思ってうなずいただけだった。  レイプはまだしも、男同士で番になって結婚、妊娠……?  俺が出産できるって?  バカバカしい、そんなこと、あるわけない!  碧馬の常識を遥かに超えた世界観だ。  頭を抱えてため息をつく。    リュカはお守りを着けた碧馬に満足そうに見つめて微笑みかけた。

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