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第14話
「そうか。この前もそう言ってずいぶん遅い昼になったようだけど、昼からの相談者がラウリがいないって探していたから、休憩はちゃんと昼に取れよ。それとも、わざと昼を贈らせているのか?」
そう言いながら、隣りに座っている碧馬にちらりと視線を走らせた。ラウリはあわてて首を横に振る。
「いえそんな。そんなことはしてません」
「そうか、それならいい。持ち場に戻れ」
「はい。……アオバ、客が来てるから、またね」
「うん。頑張ってね」
ガルダの言葉は早口で、碧馬にはほとんど聞き取れなかった。何となく怒っているのかなというニュアンスだけは感じ取れた。
ラウリが急いで食堂を出て行き、ガルダが碧馬の横の椅子を指した。もういつもの穏やかな表情だ。
「座ってもいいか?」
「もちろん」
緊張した顔の碧馬を前にして、ガルダはちょっと笑いかけた。
「どうだ、ここには慣れたか?」
「はい。何とか」
何か怒られるのかと思っていたが、別段そういうつもりではないようだ。
「困ったことはないか?」
「いいえ、みんな親切にしてくれます」
本当のことだった。獣人たちは見た目には恐ろしげな者もいたが、基本的には穏やかな性質をしていて、この世界に不慣れな碧馬に優しかった。
「そうか。ラウリと仲よくしてるのか? 頭を撫でられていたようだが」
「はい。弟みたいだって気にかけてくれてます。この前は本を貸してくれて」
「本?」
「最初に習う文字の本みたいな。そうだ、読めない字があるって言ったら、次の休みに家で教えてくれるって言ってくれて、そんな感じでいつも親切ですよ」
そういえばきちんと約束はしなかった。でもさっきは何となく怒られていたような雰囲気だったから、ラウリをかばいたくて碧馬はそう言った。
「そうか……」
ガルダはすこし眉を寄せてうなずき、ラウリがしたようにくしゃくしゃと髪を撫でてから碧馬の顔をじっと見た。
何だろうとわずかに首を傾げてガルダを見返すと、仕事のあとに執務室に来るようにと言って立ち上がった。
「あとで少し話をしよう。大丈夫だ、悪い話じゃない」
碧馬は「はい」と返事をしたが、一体何の話だろうと気にかかって仕方なかった。
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