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第13話

「アオバ、休憩していいぞー」  調理場から声が響いた。 「はーい」  昼の混雑がおさまった食堂で、碧馬は賄いの大きな碗を受け取った。シチューのような煮込みと大きな硬いパンとリンゴをもらって、遅めの昼食にする。  ここでの食事は基本的に肉と野菜の煮込みかローストした肉、主食は小麦のパンや麺で素朴な塩味が多い。シンプルな味付けだから碧馬の口にも合った。  川で魚も採れるが、獣人たちは肉を好む者が多いのであまり食べないらしい。キノコ類や木の実、果物はわりと豊富で、知らないものもあるけれど、大体は馴染みのあるものだった。  米はもっと南の方の雨の多い地方では採れるがこの辺りでは栽培していない。それだけは残念だが、ここに来て三週間ほど経っても食生活で大きく困ることはなかった。 「お、アオバ、今から昼か?」  事務所で相談員をしているラウリが声をかけてきた。  ラウリは穏やかな狐の獣人で、普段はほとんど人の姿をしているから碧馬にとっては親しみやすい相手だった。  まだ若くて年が近いこともあってよく話し相手になってくれる。 「うん。ラウリも?」 「ああ、ちょっと相談が長引いてな」  そう言いながら、カウンターに座っている碧馬の隣りに腰かけた。 「いつも大変だね」  人懐こい碧馬は簡単な日常会話ならなんとかできるようになった。   事務所にいるラウリとは毎日顔を合わせる。だからラウリは碧馬がどの程度の会話なら理解できるかわかっていて、ゆっくり話してくれるから聞き取りやすい。 「いいさ。昼が遅くなったら、こうしてアオバと話をする時間がゆっくり取れるから」  ラウリの思いやりが嬉しい。 「そう? でも俺と話すの、面倒じゃない?」 「全然! アオバはすごくかわいくて弟みたいだもん」  ラウリは笑って、くしゃくしゃと碧馬の髪を撫でる。三つ下の弟がいるというラウリはこういうスキンシップをよくしてくる。  そう言えば、リュカもよくこうして頭を撫でてくるから、ここでの習慣なのかもしれない。 「どう? どこまで読めた?」  数日前、ラウリは簡単な本を貸してくれた。日本で言う小学一年生が初めて学ぶ国語の教科書みたいなもので、とても役に立った。 「あ、あれ、すごくわかりやすい。文字も大きいし、絵もいっぱい入ってるから」 「そう、よかった。もしわからないところがあれば訊いて」 「ありがとう。あ、そうだ、読めない字があったから、今度教えてくれる?」 「いいよ、じゃあ、次の休みの日にでもゆっくり教えようか? よかったらうちに来る?」  ラウリがそう申し出たとき、後ろから声が掛かった。 「こんなところにいたのか、ラウリ」  振り向くとガルダが立っていた。なぜか険しい表情だ。 「グージョンが探しているぞ。午後の約束だったのにって」 「あ、すみません、すぐ行きます」  あわてて立ち上がるラウリにガルダは厳しい声を出した。 「ラウリ、午前中の相談はちゃんと時間内に終わっていたはずだよな? レックは昼前に帰ったと思うが」 「あ、いや、はい。レックの相談内容をまとめるのにちょっと時間を食ったんです」  ラウリは気まずい顔でそう言って、身を縮めた。

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