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第6話(アキ)

 前は、よく話をしてくれたいたのに、今のキツカは発情期が近いことを除いても、声を出すことに躊躇いがあるようだ。1年間、どんな扱いを受けてきたのか、この小屋の様子や、肌に残る消えていない古い傷跡を見ればわかる。きっと、人間扱いなどされていなかった。  しゃべり出したと思えば、ここに残りたいとか、他の獣人に嫁ぐとか、村の奴らの役に立ちたいとか、全く何を言い出すんだと思ったが、それは全て俺の勘違いだった。ああもうバカ、俺のバカ。『番』を泣かせてどうするの。  なんと、キツカは俺のために、怖い噂を知っていてもなお『獣人』の元に行こうとしてくれていたのだ。  そこからはもうなんか、興奮しちゃって。  いやいや、久しぶりの嗅ぐキツカの匂いとか、発情期とかって、ほら俺も初めてだし、本当は今すぐ抱いて、番いたかったけど、男達と同じ場所でそんなことしたくなかったし、キツカはどうにも性行為自体に怯えているようだし、耐えた。  もう一度言うよ、耐えた(褒めて!)。  何より、俺の勘違いで、めちゃくちゃ泣かせちゃったわけだしね。本当もう耐えた。  てか、今も耐えてる。  獣姿の俺の腹の上で、寝息立ててるキツカ、すごく可愛い。たまに、寝言で俺のこと呼んだり、好きとか言うのやめてほしい。俺も好き! 「お迎えにきてあげたよ。家出小僧」 「父さん!」  だめだ。尾が動くの止められない。キツカが起きてしまう。俺より更に大きい獣姿の父さんが地面に降り立つと、かすかに揺れた気がした。 「ねえねえ、父さんも母さんと会ったとき、こんな感じだったの? 発情期前は、一緒にいるだけで幸せって感じだったのに、今はもう、最悪食べちゃいたいくらい、大好きで、早く自分のものにしたいんだけど、必死で堪えてる! 褒めて!」 「勝手に家飛び出してから、親との久々の再会だよ? その距離感はどうかと思う」 「うん、ごめんね! 俺、間違えてた! 国に帰るから、背中に乗せて!」 「まぁいいけど。母さん、泣かせたんだから、そこはめちゃくちゃ謝れよ。めちゃくちゃ反省しろ」 「うん! 父さん、久しぶりのふたりきりは楽しかった?」 「ああ、まあ。弟ももうすぐ産れるかな」 「わあ」  俺は人型に戻って、キツカを抱きかかえ、父さんの背中に乗った。父さんは、ため息と同時に地面を蹴り、空へと跳ぶ。   「キツカ」  甘い香りがする。もったりとした、蜂蜜のような粘度で、俺の頭上から落ちてくる。なにが「我慢」だ。そう、自分を嘲笑う声が聞こえてくる。このまま、噛んでしまおうか。白い項をかぷりと。いやいや、だめだ。我慢だ。  これ以上、キツカを泣かせるのはだめだ。 「ねぇ、キツカ、僕はいつまでおあずけなのかな」  大好きなキツカ。目の端に滲む涙をひと舐めする。  甘かった。 (おわり)

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