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第66話
「ただいま。
母さん、おかえり。」
「ただいま、遥登。
それから、おかえり。」
帰宅早々、母親に声をかけるとにこやかな笑顔が返ってきた。
壁や机の角をカバーしたリビングにはもう1人。
すやすやと眠っている末っ子がいた。
「綾登、ただいま。」
ふにゃふにゃの綾登の顔を見て小さく声をかけると微かにミルクのにおいがする。
赤ちゃんのにおいだ。
母の顔を見るのは久し振りな気がするが、弟の顔は毎日見ていた。
父から送られてくる写真や、それらを見返したり。
でも、こうしてにおいまで堪能出来るのはやっぱり良いなと思う。
思わず頬がふにゃぁとだらしなくなる。
「遥登、オルゴールありがとう。」
「んー、優登もお金出してくれたし。」
「優登もそう言ってた。
遥登と買ったって。
でも、その気持ちが嬉しいの。」
隣に設置したチェストの上に飾られたオルゴール。
子守唄代わりになればと兄弟で選び購入した。
両親はお兄ちゃんになったお祝いだと兄にプレゼントを贈り、兄は生まれてきてくれた弟にプレゼントを贈る。
優登の時もそうだった。
して貰った事をする。
三条にしてみたら、特別な事ではない。
「気に入ってくれると嬉しいけどな。」
まだ話す事も出来ない末弟にそう言うも、眠っていて声は届かない。
だけど、すぐ話せる様になる。
すぐに立ち上がり、すぐに小学校に入学し、すぐに大人になる。
一生の内で子供時代なんて一瞬だ。
それも記憶があるのは年中辺りからだろうか。
それまでの分は自分達が沢山覚えておくから、元気に大きくなりな。
末弟の細い髪をそっと撫でた。
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